オオカミ社長は恋で乱れる
そして私の勤務先の歯科医院の前まで送ってくれると、佐賀さんはドアを開けてくれた。

私が車から降りると「それでは後程」と一礼してくれたので、私もそれに合わせて深く頭を下げて、もう一度謝罪をした。

「私の不注意でご迷惑をおかけした上、送って頂いてすいませんでした。お車の修理代を弁償させて頂きますので、分かり次第教えて下さい」

「清水さん、そちらの・・」

「車の事なら心配はいらない」

佐賀さんの言葉に重ねて車内の社長さんが降りてきて、私の前に立った。

高い位置から見下ろされて、やっぱり威圧感を感じてしまう。

「君は車の心配より自分の怪我の心配をしろ。ちゃんと手当をしたほうがいい」

「は・・はい」

頷いて見せると、何故かじっと視線を合わせたまま動かない。

気まずさにたじろぐと、目の前の気難しい顔をした社長さんは胸のポケットから黒いケースとペンを取り出して、そのケースから1枚手に取りペンで書くと私に差し出してきた。

「何かあったら連絡してくれ」

そう言われて受け取ってみると名刺だった。

名前の下に電話番号が書いてある。

そこで佐賀さんが「社長そろそろ」と声をかけたので、社長さんは車内へと戻った。

「それから先程の自転車ですが、うちの社の者が回収しますので修理させて頂きます。そちらのご連絡も後程させて頂きますのでお待ちください」

「・・はい」

「では私共はこれで失礼させて頂きます」

そう言ってお辞儀をすると、佐賀さんは助手席に再度乗り車が走り出した。

私もお辞儀をしてそれを見送り、この非日常にしばらく立ち尽くしてしまった。
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