極上社長と結婚恋愛
考えてみれば、直哉さんはたまに私のおでこや頬に一瞬触れるだけのキスをしてくれるだけで、それ以上はなにもしようとしなかった。
お義父さんに付き合っていることを報告しようとした時も、首を振って言わないようにと目配せをされた。
直哉さんが私にくれた優しさも温かさも全部、家族としての愛情でしかなかったんだろうか。
恋人だと勘違いしていたのは、私のひとりよがりだったんだろうか。
「直哉に用があるなら、連絡してやろうか?」
立ち尽くす私の情けなさに同情したのか、緒方さんがそう言ってくれた。
頷こうか断ろうか迷っていると、私のバッグの中でスマホが震え出した。
もしかして、直哉さん……?
そう思いながらスマホを取り出すと、桜木さんからのメッセージだった。
『急で申し訳ないけど、今日中に情報誌の撮影で使うブーケをお願いしたいから、大丈夫そうなら連絡ちょうだい』
という、焦ったような文面。
そのメッセージを読みながら、スマホを強く握る。
直哉さんに会わない口実ができたようで、心の中で少しほっとしてしまう自分がいた。
「緒方さん、すみません。直哉さんと約束をしていたんですけど、急な仕事が入ってしまったので行けませんって伝えてもらえますか?」
私のお願いに、緒方さんは相変わらず不愛想な表情で「わかった」とうなずいてくれた。