極上社長と結婚恋愛
 

「どうかした?」

私の顔を見て首を傾げた直哉さんに、「ストッキングが履けなくて……」と正直に言うと、さらに首をひねる。

「ストッキング? 肌が弱いとか?」
「違うんです。伝線させるのが怖くて」
「伝線?」

不思議そうな顔の直哉さんの前に、おずおずと手を差し出す。

いつも水に触れているせいで乾燥した手のひら。
指先には植物の灰汁がしみこみくすんで見えるし、トゲや葉の処理をするせいで傷だらけだ。

こんな手荒れのひどいガサガサした手でストッキングに触れたら、あっという間に伝線させてしまう。

「家で履くときはささくれがストッキングにひっかからないように、薄い手袋をつけて履くようにしているんですけど……」

私のボロボロの手を見下ろした直哉さんが「そうか」と少し驚いたように頷いた。

「ごめん、今まであずさちゃんの手がそんなに荒れて大変だったなんて、気づかなかった」
「いえ、花屋なんだから仕方ないんです。もう慣れてますし」


< 92 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop