ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
途中、どういう経緯からそうなったかは覚えてないけど、飲み比べをしようという話になった。

これは、わたしにとって最大の付け入るチャンスだったと思う。

酔った男女がラブホに入って、なにもしない訳がない。

気合いを入れ直してコスプレメニューを開いたら、全力否定されたけど。

でもこれだけ反応するなら、釣るのには最適だと、酔った頭が計算を弾き出した。

わざとワインをこぼして、タオルを取って戻ってくるギリギリのところでオプションの電話をしたら、ほら、飛んで来た。

ねぇ、こんなに誘ってるんだから、そろそろ手、出してよ。


「……お前、今日なんなわけ」

「彗大、服が気持ち悪いから脱がせて?」

なのに、彗大は怒っていた。

まただ。三枚目の油絵の時といい、彗大はたまに、意味のわからないところで怒る。

えっちする機会を与えてあげてるのに、なんで怒られるの?

「なにそんな焦ってんの」

しかも、たまにものすごく核心を突いた一言を落としてくる。

それが、すごく恥ずかしくてみっともなくて、八つ当たりをした。


「じゃあラッキーってえっちしちゃえばいいじゃん!」

「そんなヤケクソで誘われてヤレる相手じゃねーだろアホ!!」


めっちゃ怒鳴られたのに。アホって言われたのに。

この感じは、わたしが吹っかけたからキツく返した、みたいな条件反射とかじゃなくて。

怒鳴られたのは、抜け殻部分の“わたし”をちゃんと見てくれてるような気がして。

そうしたらなんだか張り詰めたものがなくなって一気に気が抜けて。

記憶がほぼ完全に落ちてしまった。

でも。

「おまえはおまえだろ。そんなことしなくても側にいてやるから安心しろ」


すごく嬉しかったこの言葉だけは、覚えてる。

この日、ほどけるような気持ちに、ようやく安心してぐっすり眠れた。
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