ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
ピリピリと苛立つ俺を手に取るように観察して、詐欺師は最大級の胡散臭い笑顔を振りまいた。

「じゃ、俺は親切だからハッキリ言うよ」

その表情には、親切心のカケラもない。

缶コーヒーをコツンとブロック塀に置くのを合図に、その印象通りにこいつは一発目から俺の地雷を容赦なく悉く踏んづけにくる。


「お察しの通り、俺が優李の最初の相手」

「!!」

「当時は俺も若かったし、まぁ初めは“JK処女セーラー“ってトリプルブランドに釣られた、ただの興味本位?」

「!!!」

「でもあいつ、飲み込み早いし相性も良かったしガンガン俺好みに仕上がってくし。
だから正直、あのまま本気で口説いて向き合うのも俺的にはアリだったんだけど」

「っっ!!!」

「でもなーって。あの当時から優李、既に色んな賞を総ナメして注目集めてたし、有名美大への進学も決まってたみたいだし」

「……?」

「発展途上中の優李を壊したくなかったから、最後は結構本気であいつを手放したんだよね」


「……は?言ってる意味がわかんねーんだけど」


頭が嫉妬で沸騰してるからか?

どうも、最後に手放した理由も、確かに気にはしていたが、大前提にこの昔話を聞かされてる理由もわからない。

「だよねぇー。意味が分かってたら今、こんな事態になってないし」

「っ、」

いちいちカンに触るが、こいつの目が詐欺師の目ではもうなくて、俺を侮蔑するように見るから、出かかった反論が寸でのところで引き下がる。


「二か月近く見てたならさ。優李の色を魅る時、画を描く時のあり得ない集中力とか、一作描きあげた後のごっそり消耗するところ位、見た事あるでしょ」

「……ああ」


確かに。色を魅る時の、集中力と常識の概念は常軌を逸しているし、描いてる時はそこしか“魅れない”。

もしかしなくても、描きあげた後の絵の具塗れだとかシャワー上がりのびしょ濡れ寝落ちという尋常でないあの景色は、当時から続くものだったのか。

「なら、分かるだろ?
それはあいつを占める画の容量がデカすぎて、あいつのキャパじゃ他まで処理出来ないってことと一緒なんだよ」

「………」

「俺の時はーー俺の欲で長く深く関わらせた日は、精神力と体力が確実に減ってた。
あいつは自覚がなかったみたいだけど、描いてる途中、ヤッてる途中で、毎回急に意識飛ばすんだ。
死んだみたいに力尽きて……ぞっとした」

「………」

「俺が優李に画以外を強要するのは、筆を折らせない限り、命を削らせることだって理解した。
でも、描かない選択肢がないのも分かってたから、俺はあいつを手放した」

「………」

「お前の時は?お前が関わって、あいつはどうなった?」

「………」

「最初こそ良かったけど、強過ぎる新しい色に日々消耗して、徐々にお前への気持ちにも振り回されて。
その事に全く配慮できず毎回バカみたいに色を魅せ続けてたから、繊細な色や優李独自の世界観が麻痺して描けなくなったんじゃないのか?」

「………」

「優李にとって描けないのは、息のできない事と同義だ。描けない原因が自分にあるって分かってて、なんでお前プロポーズなんてしたの?」

「………」

「描けないままの優李を今も手放さないのがお前のエゴなら、俺の方がまだマシだ。
優李がお前を好きだろうと引き離す」

「…………」

「無自覚なお前の毒で、これ以上優李から画を奪うな」

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