ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
黙って聞いてれば、ほんとさっきから好き勝手いいやがる。

なんとなく優李がお前の話を出した時から、距離の近さに予感した。

もし男なら、昔なんかあったヤツなんだろうと。

こいつを見た瞬間には、予感は確信に変わってたけど。

でも。

JKとか処女とかセーラーとか!そこまで察してねーよ!いちいち付加価値つけてくんなよ性格悪いな!

(しかも戦法が地味に俺と被るから余計に胸糞悪いんだよこの詐欺師顔!)

あーまだまだ言いたい事は腐るほどあるが、生憎俺は急いでいる。

同じ土俵にも立ったことのない奴の為に、ゆっくり俺の馴れ初め返しをする気なんてない。


「言いたいことってそれだけ?」

俺の第一声が意外だったのか、詐欺師顔の目が見開かれる。

悪いが俺にとっちゃ、あんたの話は全く響かない。


「それ、全部あんたの臆病な憶測だろ?」

「事実だよ」

「じゃあ、いつ、誰が、優李が画以外を求められないなんて決めたんだ?」

「!」

あいつは天才だけど、血の通った感情のある普通の人間。

普通に笑うし、怒るし、泣くし、焦るし、悔しがるし、恥ずかしがるし、寂しがるし、甘えたがるし。


オーナーには妬けるレベルでバカみたいに懐いてるし。

詐欺師みたいなヤローでも、友達のいうことはアホみたいに信用してるし。

俺には初っ端から感情全開でフルアタックしてくるし。

控え目に言っても!今は全っ力で!俺を!好きだし!


描くことしか出来ないヤツに、あんな感情を揺さぶる画は描けない。


「あんた、一回でも本気で必死で、優李を手に入れようとしたことあったのか?」

厄介な女なんて、出会った頃から百も千も、万も承知だ。

それでも欲しいと思った。無様でも醜態晒しても、俺の声しか魅てなくても。

手に入れたくて手に入れたくて。


「あんたは結局、優李の為とか言い訳ばっかで請け負う荷の重さに逃げただけだ」

自分から手放す?あり得ない。

荷の重さ以上に価値のあるこの気持ちに気付けなかったのは、あんたの覚悟じゃ優李を受け止める資格がなかったからだ。

「……まぁ俺も、今だから偉そうに言えるんだろーけど。
でも、このタイミングで優李と巡り合えたのはーー控え目に言っても、やっぱり日頃の行いの差じゃね?」

「!」

拍子抜けしたような表情を見せた後、詐欺師の目に自嘲と諦めの色が浮かぶ。

ほらな。
この程度で引いてしまえる感情だから、お前じゃダメなんだよ。


「……じゃあお前は、これから描けなくなった優李をどうするつもりだよ?」

「はぁー?描けなくなる?
もしそうなってもそれは俺のせいじゃないだろ。あいつの修行不足。」

「!お前……っ」

「天才だから努力しなくてもいい時代じゃ、今はないらしいんで」


俺みたいなハイスペックでもアイツと出会ってから、何度HPが瀕死で、何度変な脳内物質を生み出して、何度カッコ悪いことの連続だったか。

ブロック塀に置かれたままのコーヒー缶を取り上げて立ち上がる。


「俺は俺ですることあって忙しいんだよ。
美味しいとこどり出来ると思ったら、甘ぇから。出直しやがれ、この詐欺師」

< 123 / 144 >

この作品をシェア

pagetop