ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
こいつの日々のバイオレンス的な積み重ねが俺を麻痺させたというなら、そうかもしれない。

でも、28年生きてきて、こんなに夢中にさせられたのは、人類史上でも有機物史上でも優李がぶっちぎりで。

この女を逃すべからずと、俺の先祖も墓場の影から言っている(気がする)。

そして、前回の敗因を考えた。

ぶっちゃけ、優李の相手は俺しかいないと思ってるし、自意識過剰に聞こえるだろうが、優李も俺以外なんてあり得ない。

なのにサラッと流されたのは、余りにプロポーズが急過ぎたからだ。

思い返せば、あの時優李のメンタルも俺のコンディションも、非常に色々と悪かった。

もし逆に、あれでプロポーズを受けられていたとすれば優李のことだ。それこそ愛の無い割り切り結婚になっていた。


でも今なら。

優李のメンタルは回復してるし、何と言っても今はちゃんと付き合っている。

もしちゃんと順を踏んで、勢い任せではないと分かってもらえたら。

更には魔王様に後押ししてもらえたら。(超打算)

な、の、に。あのクソ坂上め……!
上司の風上にも置けないポンコツめ……!

イベントプランとは別に、用意していたプロポーズプラン。

エキストラを侍らせながら完璧にダンスしてプロポーズ!
みたいな、ガチのサプライズプロポーズは俺には敷居が高過ぎて無理だったが、俺の職業はグラフィックデザイナー。

機械と技術を駆使して優李の描いた巨大パノラマに融合する音と映像を流してのプロポーズ!
なら、俺の羞恥もギリギリで耐えられる。

(ただし、2人きりを狙わなきゃ絶対無理だ!)

そんなこんなで、同時進行でコソコソと深夜残業していた最終日。

あり得ない嗅覚で俺のプランをギリギリで嗅ぎ付けてきたあの男は、ソファで一時休息する俺の隣目掛けて、ジャンピング土下座をしてきた。
(ソファのバネでジャンピング)

「そのプロポーズプラン、譲ってくれーっ!
あともう一押しで祥子が許してくれそうなんだ!」

いやいや。俺にそんな事情関係ないし。つーか自業自得だし。

契約変更時、このポンコツから奥の手としてサラッと聞いた話ーー。

ヘボ上司坂上と宮下オーナーは実は学生結婚だったそうだ。
しかし坂上の浮気がバレて即離婚危機に。
が、坂上の浮気で得られたコネの数々や仕事での利害関係を鑑みて、なんとか紙一枚で繋がっている奇妙な関係らしい。

「はぁ……何を根拠に」

「会う回数が増えた!」

「企画変更してからは、あなたにバトンタッチしましたからね」

「で、この前酒で潰してラブホで3発ヤってきた!」

「最っ低のクズですね!」

「あの意固地で可愛い祥子は、昔からそういうお膳立てがないと素直になれない女なんだよーう」


どこからどう聞いても、頭の痛い妄想癖強めの中年レイプ犯。
今すぐ110番するのが賢明だと思ったのだが。

「俺が本気で愛してるのは、昔も今もこれからも、ずっと祥子だけだし」

ポンコツの発した言葉に少なからず共感なんぞしてしまったから。

「……本っ当に、勘違いじゃなく、後一押しなんですか?」

「!神山様ーー!!」

「近い!うるさい!ウザい!」

「うまく言った暁には、今度は俺が神山と社ちゃん、結婚させてやるよー!」

確実にそこは期待していない!

でも、まぁこの人らがまとまってくれた方が、今後魔王様の後ろ盾は確実なのか。(ここは期待押しの打算)

呑気なことを言って喜ぶヘボ上司があまりに無邪気だったので、なんだか絆されてプログラムを渡してしまった。


のが、間違いだった。

部下の渾身のプランを横からオネダリパックンするだけでもポンコツなのに、あの男は最低のタイミングで最低のしくじりをしたのだ。

< 136 / 144 >

この作品をシェア

pagetop