ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「まけぃた、今度は逆立ちして輸血させろって言ってみてー?」

そのネタはもうやめてくれ……!

ここ3日、輸血ネタでイジリ倒され屈服させられ、もうまけぃた呼びへの反発心すら起こらない。

これはパワハラにあたる行いだ!基本的人権を脅かす事態だ!と、いつからか更に誕生した俺の脳内弁護士が訴えているのだが。


「嫌「ああ、ごめんごめん!輸血ネタばっかじゃ鮮度も落ちてくるよね?ここらでそろそろ新しいネタ「言えばいいんだろ!」

「あ、その声もヤバイね」


くそ!このくそ女が!くそ!

もう語彙力すら崩壊してきているのを自覚しつつ、腕をまくって逆立ちの準備を従順に整える。

腹は立つ。だが、こいつの才能はもう認めざるを得ない。

社優李は独特の色彩感覚をもつ、色の天才と謳われている。

こいつは、俺の出す感情が乗った声に色を見て、さらにその色を表現する力をも持っている。

俺がここに来てからずっと、恐ろしほど美しい世界がここにあって。

ここにいると、自分の魂を抜かれそうになる。

「……輸血させろ」

「やだーん♡もう一回♡」

「っ……‼︎」

「ああ、その逆立ちの時の苦しげな舌打ちもいいっ!おかわり!です!」

まぁ、すぐに残念な現実に引き戻してくれるのもこいつだから、魂はすぐに戻ってくるのだが。
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