ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
逆さになった世界で、社優李の画を見る。

相変わらず、どうやったらこんな色が出せるのかと首を捻る。

今日はなんとなく色鉛筆の気分だと、12色の色鉛筆と、さっき思い立ったらしく、6色チョークを削りながら使っているが、なんというか、匠の技だ。

どうやったらこの18色でそんな配色が生まれるのか。

今回のコラボは大まかに言えば、こいつの日々描いた世界を俺らの技術とセンスで繋ぎ合せて1つの巨大パノラマ空間を作り上げることだ。

その説明をこいつにしたら、「えー繋ぎ合わせぇー?それなら、どかっと巨大な一枚画を描いて空間いっぱいに貼り付けたい!」と言っていたが。

こいつは真性のアホだ。

自分がどれだけ気分屋かを全く自覚していない。

こいつは気分だけで色んな画材や素材を使ってくる。


失神から目覚めたあの日、俺の目の前に「今日聞いたまけぃたの声のイメージサンプル!」とか言って、生卵の殻をキャンバスにして、アクリル絵の具で6色の卵(近くのスーパーで12個入りは赤玉子しかなかったらしい。)をドヤ顔で差し出してきた時は、また目眩がした。

恐らく、自分の作品の価値がこのアホは分かっていない。

保存のきかない素材でも、脆い素材でも、閃けば迷いなく使う。

そんな奴が、気長に巨大な一枚画を描けるものか。

俺の今回の仕事は、声だけに限らずそういう管理全般を担っての“補佐”なのだと、この3日で学んだ。


「まけぃたー」

「なんだよ」

「えぃ!」

「っはぁ?!」


画に魅入られている隙に、いつの間にか至近距離に寄ってきていたこいつの両手が、思い切りチョークの粉がついた両手が、俺の胸元目掛けて真っ白なアルマーニのシャツをなんとも言えない色に染め上げる。

ちょ、はぁ?!

余りの予期せぬ事態にバランスを崩し、こいつを巻き込む形で倒れこむ。


「いったいよーまけぃた!」

「痛ぇのは俺の方だ!」

いや、腕が若干痺れていた状態での、庇いきれない半下敷き状態だ。こいつも痛いのは痛いんだろうが。

アルマーニ重体ーー。

くそ!またしても!

ダメだ。こいつといる時は汚してもいい作業着にしなければ!

俺の学習能力が着々とこいつのパターンに沿って上書きされていく。

しかし、今回は不幸中の幸いとも言えるチョークだ。
逆立ちの際に脱いだスーツは無事だし、やられたのもワイシャツ一枚だ。クリーニングに出せばまだ助かる。セーフだ!



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