ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「いつまで塗りたぐる気だよ」
なんとなく、俺は自分の思うなけなしの雑な声を出す。
まぁこれでこいつの創作意欲が下がれば、困るといえば困るし、職務放棄と指摘されれば……やっぱり困る。
はぁー。なにやってんだか俺は。
なんなんだろうか、この矛盾は。
「へぇ。まけぃたって、そんな声も出せるんだ?」
なのに。こいつときたら良いことでも教えてもらったみたいに目をキラキラさせたかと思うと、今度は目を細めて。
「っっ??!」
あろうことか俺の喉仏を食んで、ペロリと舐めた。
「っっ、お、前、は……っっ、」
俺は身動きすら躊躇っているというのに、二度も首(しかも真正面!)を……なんてアバズレだ!!
「もーまけぃたさぁ。そんないっぺんに色んな音だされても、描ききれないよー?」
「誰のせいだよ!!」
どう考えてもお前が悪いだろーが!
描ききれないと言ったくせに、着々とアルマーニに今までとは違うカラーが追加されていく。
だから、その反則的な配色、なんなんだよこの天才が!
「興味をそそらせる、まけぃたが悪いんだよー」
「!」
至近距離でへらっと笑われて、イラっとするようなギュッとくるような、まるで第一打で放たれた胸元辺りの言いようのない色と同じような気持ちになる。
つか、天才の上にマジシャンかよ!
こいつの世界を間近で覗き込んで3日。
早くも抜け出せない沼に足を取られたような言いようのない違和感が、俺をざわつかせていた。