ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「やーなんか呼ばれたから」

「はぁ?呼んでねぇよ!」

「うん、まけぃたじゃなくて」

「はぁー何なんだ、よ」


よ、というが早いか、俺の腹部目掛けて第二弾の手が飛んでくる。

「っ、な、」

「うん」

「ちょ、うんって、」

「うん」

手に削った粉チョークを付けて、ガンガン白い面積を減らしていく。

アルマーニ死亡。完全アウトーー。


「ーーー、」

っっなんちゅーことしてくれるんだ!

と、本来なら怒鳴るところなんだろう。

幾らすると思ってんだ!アルマーニだぞ!と。

けれど。

不覚にも、心臓が全ての言葉を飲み込むようにドクリと脈うった。

布越しに伝わってくる、なぞる手つきに。

少し体温の高めな、小さな手のひらに。

迷いなく色付いていくシャツの色彩に。


こいつの世界観がシャツを通して全身に染み込んでくる。


「ね、もっと」

「、なにを」

「こえ」

「あ、ああ……」

「うん」


なんなんだ?

途端に、密着した部分、というか身体を保つ角度も指先すらも。

ピクリとも動かせなくなる。

いつの間についたのか、こいつの頬のチョークを拭いたい、のに、なぜだか拭うのを躊躇ってしまう、この訳のわからない衝動と葛藤はなんなんだ?


「ふ、緊張してる」

「っ、はぁ?」

「いい支持体」

「俺の身体はキャンバスかよ!」

「ふ、褒めてるのに」


この3日間で気づいたこと。作品にのめり込みだした時のこいつは、手ブレを防ぐ為なのか、いつもより静かに笑う。

そうやって、笑うと震えるまつげに、唇を寄せたくなるのはーー



あかん!俺、今、超疲れてる!!

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