ハイスペック男子の憂鬱な恋愛事情
「まけぃたマックは?待ちぼうけ!」

「……また発声練習かよ」

「満月まさかのまた来年!!」

「だから発声練習みたいに文句言うなよ」

二週間目。もう10月も下旬に差し掛かった昼過ぎ。

マックの、満月チーズ月見が食べたい!といきなりコイツが電話で喚くから、事務所からアトリエに向かう途中ということもあってパシられてやったのに、
割と混み合っていて待たされた挙句、まさかの販売終了を告げられるという期待損のような不幸に見舞われ、コイツは今、分かりやすく不機嫌なのだ。


「まけぃたマックスマジ無能ー」

「発声練習で息吐くみたいにディスんな。」

つか、販売終了はどうしようもないだろ。

もう、当然のようなまけぃた呼び訂正の件は突っ込むまい。


「あー誰かさんのせいでやる気でなーい」

わざとらしく置かれたアトリエの巨大なキャンバスは真っ白で、コイツらしく俺を責めたてる意を分かりやすく伝えてくる。

でも、

「別のキャンバスで描いてたんだろ?」

「!」

お前はずっとここにいるから気づいてないんだろうが、部屋に充満する独特の油絵の具の匂いが、ずっと何かを描いていたことも分かりやすく伝えていた。


「まけぃたのクセに生意気ー」

「お前には負けるから」


一つ極端にあちら側を向いたイーゼルを覗き込むと、匂いの正体である作品がそこにあった。

ああ、丁寧に繊細に塗り込まれているのはわかるのに、相変わらずの存在感と独特の色合いがとてつもない引力を放っている。
今回のは油絵の具の特性もあってか、大胆な色っぽさがあるというか本能的、と、いう、か。


「これ、クリスマスイベ用とは違う作品か?」


うっかり忘れていた。
今回油絵の具は納期の都合上、NGだった。

溶き油や油絵の具の種類なんかでも多少変わってくるらしいが、基本、油絵の具はとにかく乾くのに時間がかかる。

冬の寒い時期は特に時間がかかるから、
暴走して止められない場合(後日談だがカラオケの後の暴走は凄くて、翌日俺がアトリエに現れる数時間前までは全身油絵の具塗れだったそうだ。)はとりあえず自由に描かせるとして、
今回のイベントには使わない方向でと当初、話に出ていたのだ。

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