鬼部長に溺愛されてます

きっと部長はあのときのことは忘れてしまっているだろう。
桐島部長が担当してきた新入社員は相当数。
研修中に倒れた私を病院へ担ぎ込んでくれたことなんか、いちいち覚えているはずはない。私の目が覚めたときにそばにいてくれたことも、記憶の彼方に追いやられているだろう。

そんなことを今さら言ってみても、肩すかしをされて終わり。覚えていたとしても、人事担当として当たり前のことだと一蹴されてしまうだろう。

そうしたら私の中の小さな期待が木端微塵に砕けてしまう。
本当の桐島部長は優しいと言っておきながら、冷たいことを返されて傷つきたくないと逃げ腰になる。


「……いえ、なんでもないです」


見つめ返された視線を逸らして、言葉を飲み込んだ。


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