【完】姐さん!!
なるみはキスのことを知らないし、俺が平然としてればよかったんだろうけど。
彼女を見るたびにあの日一方的に重ねたくちびるのやわらかさが蘇って、平然としているのがむずかしくなって。
あからさまな行動ばかりだった言い訳を考えていた思考は、ぴたりと止まる。
俺がとっさに間抜けな返事をしたせいで、なるみは距離を詰めてじっと俺のことを見下ろした。
「だから、怒ってるんでしょ……?
その……やくそく、やぶっちゃった、こと」
「ごめん、何の話?」
「っ……衣沙の知らないところで流くんとイチャついたら怒るって言ったでしょ?」
俺の知らないところでイチャついたら……ああ。
コンビニからファミレスに向かうまでの間で、なるみのこと追い詰めた時にそんな約束したな。
あれは単になるみが無防備すぎるから、流兄のこと信頼しすぎるなよって意味の忠告だったんだけど。
なるせがいてくれてるから、って俺も油断してたし。
「でも、ほんとにそんな気はなかったんだけど……
なるせが『姉ちゃん告白されてたって衣沙兄に言っちゃった』って言ってたから、それに怒ってるんだと思って……」
「まあ半分せいか……ん?」
あれ? なんか、いまの、おかしくない?
「……告白されてた?」
その瞳を覗き込めば、なるみはぱちぱちと瞬く。
それに怒ってるんじゃないの?って不安そうな声で聞き返してきたなるみに返事できなくて、頭の中をぐるぐると思考が渦巻く。
「……あの、なるみさん?」
待って。……いや、待って。
たったひとつの仮説に行きついたせいで、頭ん中、パニックになってんだけど。