【完】姐さん!!
そのときと違って本当に振り払ったのに、まっすぐに衣沙がわたしのことを見るから。
「いやだ」とは言えなくて、招かれた家の中に足を踏み入れる。
ほかに誰もいないようで、わたしと衣沙のふたりきり。
ドアを閉めた衣沙はリビングにわたしを通すと、「適当にくつろいでて」と一度2階に上がっていく。
「………」
くつろいでてって、言われても。
衣沙が「なるみの用事も聞きたい」って言ったせいで、心の中は全然落ち着かない。
告白しにきましたなんて言えないんだけど。
……さっきはあんなに言える気がしたのに、いまのやりとりで、気持ちがすっかりしぼんでしまった。
「まずは俺から話したほうがいい?
それとも……なるみの用事からがいい?」
もどってきた衣沙が、今度はキッチンからわたしに言葉を投げかけてくる。
「衣沙から」って独白みたいに返事してみたら、わたしとは違って「わかった」っていつも通りの衣沙に、どうしていいのかわからなくなる。
だって。
キスの一件から今日まで、気まずかったのに。
休みに入って知らぬ間に、衣沙は平然としてる。
ああやってニナくんが見送ってくれたのに、衣沙の気持ちを疑ってしまいそうになる。
「……あんまり気分のいい話じゃないけど」
手渡されたグラスには、アイスティー。
コーヒーと同じで砂糖は一切入っていないそれを受け取って落ち着こうと口をつけたら、衣沙がそう前置きしてから話を切り出した。
「……女の人と一緒だったんでしょ」
「ほら、こないだ、色々関係切ったじゃん……
その中に、何人か文句言ってきそうな相手がいるって言ってただろ」
大学生とか社会人とか、と。
衣沙の言葉を聞いて、記憶をさかのぼる。……ああ、たしかにそんなこと言ってたわね。