【完】姐さん!!
「ハート型の泡を出すイルカと、
ファンサービス旺盛なゴマフアザラシが有名なんだってさ」
「うん、なるせに聞いた」
「いかにもなるみの好きそうな感じだよな〜」
当たり前みたいにわたしの分までチケットを買ってくれるし、慣れたように手を引く衣沙。
いままで彼女がいなかったのは知ってるけど、慣れてるのかなって思ったらちょっとだけモヤっとした。
でも、水族館を選んだのは正解かもしれない。
みんな水槽の中に夢中で、若干薄暗いこともあって、衣沙に目を奪われる女の人は少ない。
「なるみ」
それでも。
大きな水槽の前で光を受ければその横顔は極端に艶やかに見えるせいで、女の人たちがちらほら衣沙を見て何か話したりしているけど。
「水族館来たかったんだろ?
まわり気にしてないで、水槽見てればいいよ」
「……、うん」
「俺はなるみの横顔眺めてるから」
「恥ずかしいからやめてください」
不安なんて感じさせないぐらい、わたしだけ見ててくれる。
わたしにだけ、優しい表情を見せてくれる。
それがたまらなく愛おしくて、ぎゅっと手を握った。
話しかけたら「ん?」って聞いてくれて、わたしよりもどこか大人びた態度で、安心させてくれる。
本当にわたしの表情を眺めているみたいだったから、恥ずかしかったけど。
まわりなんて気にしないでわたしのことだけ見ててくれるなら、それも悪くないなあって思ったりして。