【完】姐さん!!
「っ、う、るさい」
衣沙は付き合ってから、ときどきこういう顔をするようになった。
そしてその時は、決まっていつもわたしを揶揄って遊ぶことを知っているから、思わず警戒してしまう。
「俺のこと好きでいてくれたんだろ?」
「……ヘタレなぐらいでちょうどよかったのに」
「ヘタレ言うな」
「……だって衣那くんとなるせが」
衣沙はずっとヘタレだったんだよ〜って言ってたから。
……そうじゃない面も、ちゃんと知ってるけど。
意地悪してくる衣沙は余裕げで悔しいから、ヘタレでいてくれた方がいい。
そんな頼りない部分を知ってるのもわたしだけだって、そう思わせてほしい。
「あのさ、なるみ」
衣沙が、口を開く。
だけどそのタイミングで電車が目的の駅に到着してしまったせいで、彼は結局その言葉の続きを発することはなく。
「わあ、すごい」
「……さすが流行ってるだけあるな。
カップルばっかりじゃん」
わたしもそれを追求はせずに、この場にそぐう笑顔でいようと彼の手を引く。
目的地は、展示の仕方が変わって前よりもおしゃれになったことで流行っているらしい水族館だ。
どうやらなるせが、前に彼女のみいちゃんと行ったようで。
「姉ちゃんこういうの好きじゃん」って勧めてくれたから、衣沙にそれを伝えて、一緒に来た。