恋におちる音が聞こえたら





「今日から一ヶ月の間、よろしくお願いします」



「ふふっ。一ヶ月と言わず好きなだけ居てくれていいからね。それから、私のことは“ハナちゃん”って呼んでね」



 “さあ入って”と優しく肩を押される。あたしは緊張と少しの人見知りから小さくなる声で“お邪魔します”と言いながら家の中へ入った。



「あら、違うでしょ?」



「え?」



 驚いてその場に立ち尽くしたまま顔を上げる。何か粗相をしてしまったのか。不安な目でハナさんを見つめ返すと、彼女は微笑みながら“こういうときは“ただいま”っていうのよ”と答えた。



「…………た、……だいま……です」



 ……ただ口にしただけなのに、不思議とくすぐったくなる言葉。それは言い慣れてないせいか緊張のせいなのかわからないけど、なんとなく恥ずかしいと思ったのはたしか。

 ふと顔が熱くなってきて、思わず目を伏せるあたしを見ながらハナさんは続けた。



「おかえりなさい」





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