メトロの中は、近過ぎです!
大野課代はずっと無言のままでタクシーを止めた。

ドアを開けて下を睨んで立ってるから、乗れってことだと理解して先に乗ると、その後に課代も乗り込んで

「浦安まで」

それだけ言うとシートにもたれて目を閉じている。

「ありがとうございました」

すごく小さな声だったけどお礼を言うと、課代は少しだけ目をあけて私を睨んで、またすぐに窓の外に視線を戻した。

はぁ~

っていうため息まで聞こえてくると、もう胸が針で刺されたように痛くてたまらない。

一人で電車で帰れば良かった。

ひたすら通り過ぎてくネオンを見ていると、不意に視線を感じる。
恐る恐る振り向くと、こっちを見ている課代。

怒られる、と思ったけど、何も言わずに視線を逸らされた。

また、痛い沈黙の空間

「課代の家はどこなんですか?」

今更だけど、聞いてみた。
無視されるかと思ったけど、チラッと私を見て、

「逗子…」
「え?逗子?」
「…」
「神奈川?まるっきり逆じゃないですか?すごい遠いですよね?」

口をきいてくれたことが嬉しかったからなのか、逗子という地名が本当に意外だったからなのか、早口になってしまう。

「…」
「なんで千葉に行くんですか?」
「…」
「どうやって帰るんですか?」
「…」
「この前はどうしたんですか?」
「うるせ。会社に戻った。停めてた車で寝た。以上」

本当に面倒そうに言われた。

停めてた車で寝た?

なんで?
なんでそこまでして千葉県に?
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