メトロの中は、近過ぎです!
「送らせて」
主任が耳元で囁く。

顔、近いんですけど…
私が身をよじって離そうとしても、そのまま歩こうとする。

どうしよう。困った。

10mくらいそんな状態で進んだ時、突然大きなものに行く手を阻まれた。

顔をあげると…大野課代だった。

助かった。

ホッとしていると、課代は無言で私の手をひき反対方向に歩き始めた。

ビックリしたのは私だけじゃない。
一気にその場の温度が下がった気がした。

川端主任が、大野さんを睨んでる。

「おい。御曹司だかなんだか知らないけど、あんま調子のんなよ」
「……」

いつもニコニコの川端主任のこんな姿初めて見た。
なんか言おうとしたけど、足も口も固まって、動けない。

更に大野さんは冷たい目で
「あ?」
って言い放った。

馬鹿にしたような言い方。
どうしよう。揉めるのだけは避けなくちゃ。

川端主任が一歩こっちに近寄った。

「あ、あー良かった。
主任、課代と私の家はご近所さんだったんです。
課代、ちょうど良かったです。
タクシーですか?
そうなんですね?
あの、私もご一緒していいですか?
うわー、助かります。
ということで、主任、お疲れ様でした…」

転びそうになりながら、課代の背中を押していった。
後ろは振り向けなかった。
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