侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
目の前の瞳は深い海のように穏やかで、今はそれが恨めしくすら思えるのです。

「エセル……、愛してる」

愛しているなら今まで何故、それとも単なる睦言ですか。

そう言いそうになりましたが、戯れのように啄ばみ、唇を擦り合わせながら再開された口付けが嬉しく、私は言葉を飲み込みました。

口付けは徐々にまた熱を孕み、長い指が私の髪に差し込まれた刹那、誰かが控えめにドアをノックします。

着替えの手伝いはこちらが声をかけてから、と事前にメイド達には伝えてありましたし、どうしたのかしら? 瞬時にそう思った時、「リードマンです」と扉の向こうから声がしました。

「……少し待て」

落ち着いているレイモンド様とは対照的に、私は少し慌てて膝の上から下りようとしましたが、あれ…れ? どうしよう……

「あの…、体に…力が入りません」

かなり情けない声です。

私は恥ずかしいし困っているのに、レイモンド様は小さく吹き出し、
「僕とのキス、そんなに良かった?」

揶揄うような笑みに、一気に顔がカァァ!

「違いますっ!」

「素直じゃないね」

レイモンド様はくすくす笑いながら、軟体動物のようになってしまった私を優しく抱え上げ、長椅子に半分横たわるような姿勢で座らせてくれました。

「でもかわいい……」

甘みを含んだ声で囁きながら、額に羽根のような口付けを落としたのです。

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