侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
それにしてもエセルを置いて行ってくれるのは有り難いが、警戒心の無さに、もはや敵ではないと言われたようで何だか腹立たしくもある。

「えっ!? ええ、行っていらして」

エセルは作り笑いを浮かべて言ったが、ルースが僕らに背を向け歩き出した後、さりげなく僕との間に距離を取って座り直した。
ズキッ

僕はまったく気にしていない風を装って、ルースが少し離れた所にいる主催者のもとへ辿り着くのを、立ったまま見守った。

本当のことを言うと、ノーティア伯爵はルースを探していなかったし、そこまで礼儀にうるさく無い。
ただうっかり言い忘れてしまったが、物凄~く話が長いから、ほんの少しでは解放してくれないだろうな。
くくくく、ノーティア伯爵、大いに本領を発揮してくれ!

「エセル、どうして僕の誘いは受けないのに、あいつの誘いは受けるんだ?」

「またあいつなんて……。アンディーはお友達ですし、わたくしの勝手でございましょう? それに、エスコートの話は白紙に戻したはずです。父も了承しましたし」

エセルは目を逸らしたまま、きまり悪そうに言った。

ついさっきまで、あいつには花が咲いたような笑顔を見せていたのに。
じくじくと胸が疼いて仕方が無い。

衝動的に彼女の耳に唇を近づけて(あぁ、ふんわり甘いエセルの匂い。食べてしまいたい)囁きかける。

「エスコートの話は無かった事に出来ても、僕らが特別な関係だと言う事は、無かった事には出来ないぞ!」

エセルは琥珀色の双眸を零れ落ちんばかりに見開いて、
「私は覚えていませんもの、全ては既に無かった事です! 人に聞かれます、お願いですからこれ以上は何もおっしゃらないで!!」
とヒソヒソ声でピシャリと言う。
そして花びらのような唇に人差し指を立てながら、僕に顔を近づける。

やっと目を合わせてくれた。
このまま抱き上げて、何処かへ攫ってしまおうか……。

「黙らないよ。つまり僕は君にもてあそばれたって事だな?」

「え?」

瞬時に真っ赤に茹で上がってゆくエセルの可愛い顔を見つめながら、僕は余裕の表情で片方の口の端を上向かせた。
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