侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
レイモンド様は私の腕を掴んだまま、皮肉っぽく笑いました。

「良いから答えたまえ。プロポーズを断られた身としては色々気になるのさ。言わないのなら、僕はこの手をずっと離さないよ」

不遜な口調でそうおっしゃって、私の腕をまたグイッと引っ張りました。
その時ふいに、微かに熱を帯びたシトラスの香りが鼻腔を掠め、瞼の奥に閃光が走り、あの嵐のような口付けが頭の中を駆け巡ったのでした。

私は忘れてしまいたい思いを締め出すかのように目を閉じましたが、ほんの少し胸は甘く疼くのでした。

アンディーへの気持ちを言えば、今後この方とは関わらなくて済むって事よね。

呆れたように嘆息し、
「アンディーといると気持ちが和みますし、彼の事はとても好きです。でもそれが恋愛感情なのかどうかは、正直なところ分かりませんわ」
素っ気なく答えました。
 
「それは恋愛感情なんかじゃないよ」

レイモンド様はクスクス笑いながら、散歩を再開なさったのです。

「恋をしたらそんな悠長な事は言っていられない。一緒にいれば、どうしようもなく心が躍るし離れたくなくなる。会えなければ恋しくて苦しくて、頭がおかしくなりそうなくらい堪らない気持ちになるんだから……」
最後の方は、何だか切ない雰囲気が漂っていました。

「まあ……、いつも偉そうな侯爵様が誰かに恋い焦がれた経験がお有りになるなんて意外ですわ。ま、わたくしには関係無い事ですけれどね。ちょっと面白い……」

ふふふと笑うと、レイモンド様は不愉快そうに、
「君は平気で酷い事を言うんだな……。僕は機械で出来てるわけではないんだよ、そんな風に言われたら傷つくし、許せない」
と、少し掠れた声でおっしゃいました。

正直、そんなに酷い事を言ったかしら? 
と思いましたが、言い方が気に障ったのかも知れません。

「あの、申し訳ございません」

「いや、良い……。ところでさっきの話に戻るが、君はルースを愛していないのだから、彼の求婚は受けないんだろう?」

< 54 / 153 >

この作品をシェア

pagetop