侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
悪意を感じるあからさまな物言いに、私は目を見開き一瞬言葉が出ませんでしたが、薄く笑い続けるレイモンド様を睨み付けながら語気を荒らげ、
「何て事おっしゃるの、人を侮辱するのもたいがいになさいませ!! わたくしとアンディーの事は、あなたには一切関係の無い事ですし、わたくしには、これ以上あなたとお話ししなければいけない事なんて、何一つありません。いいえ、金輪際二度と口をききたくありません!!」

非難するように一気に捲くし立て、腕を引き抜き踵を返しましたが、次の瞬間、レイモンド様に二の腕を捕まれてしまいました。

「おっと……逃がさないよ、エセル!!」

折れてしまいそうなほど強い力と、氷のような表情、そして胸を締め付けるシトラスの香り。
私は追い詰められたような錯覚に陥り、恐怖を覚えました。

「お放しになってっ!!」

「嫌だ、放すもんか!」

レイモンド様は、氷のような眼差しで私を見据えながら顔を近づけ、
「ねえエセル、仮に君とあいつが結婚したとして、初夜のベッドできっとあいつ、がっかりする事になるよね? 僕が君の最初の男で、もう既にたっぷり愛を注がれたってあいつに教えてやるのかい? ねえどうするんだ? 教えてよ」

嘲笑交じりにおっしゃったレイモンド様の美麗なお顔に、私は掴まれていない方の手を思い切り振り下ろしました。

良く整備された草原に乾いた音が響き、私は一瞬時が止まったように感じました。

良くも悪くも、これで色々なものが終わったのです。

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