侯爵様のユウウツ 成金令嬢(←たまに毒舌)は秀麗伯爵がお好き?
レイモンド様は先に着替えを済ませ、別室でリードマンとおしゃべりをしていましたが、私が部屋に入るや、目を見開いて石のように固まってしまいました。

私メデューサですか? やっぱメイク似合ってません? ドレスも髪型もダメ?

リードマンが咳払いして、
「旦那様、どうなさったんですか? ほらちゃんと言わないと、奥様にお気持ちが伝わりませんよ」
と何か言うように促しましたが、肝心のレイモンド様は、あ、ああ……と生返事をしつつ、未だポカンとされています。

そして少し間の抜けたタイミングで、こう言ったのです。

「いやその……、君が余りにも変わり果てた姿になっているから、つい……」

メイド、リードマン、私、目を真ん丸にして絶句!

「わあああ、だ、旦那様ーっ、何言っちゃってるんですかーーーっ!? 奥様、だ、大丈夫ですから、もの凄くお綺麗ですから、落ち着いて、いや、落ち着くのは私か……、あああもうっ、何て予想外な事を」
と、慌てふためくリードマン。

「お世辞なんて良いのよ、リードマン。技術は最高でも、素材が……ほほほ、それに侯爵様のお気持ちは、ストライクに伝わって来たから大丈夫よ」

射るような視線を主人に向ける使用人達。
そして、弾かれたように慌て始めるレイモンド様。

「あっ違うっ! 私は、『変わり過ぎた姿』と言おうとしたのだっ!! いや、そもそもそれだって無理矢理で……」
大きな声で言って一呼吸おいてから、
「 うブツブツ(つくし)すぎて、言葉がブツブツ(見つからなかった)のだ」
と、蚊の鳴くような声でブツブツごにょごにょ。

何て? 聞こえませんけど? 
『うっかりし過ぎて』って言った?

白けたように渇いた笑い声を出す私。

リードマンがレイモンド様に、冷ややか~な視線を送りながら、もはや修復不可能……と呟いたのとほぼ同時に、初老の執事のコンウェイがやって来て、「旦那様、奥様、お時間でございます」と恭しく告げたのでした。

< 96 / 153 >

この作品をシェア

pagetop