御曹司のとろ甘な独占愛
 伯睿から渡されたカードキーは、秘書課のあるフロアを通さずに直接本社ビルの上層階へ行くことができる、エレベーターキーだった。
 一花はこのキーに似た物を初出勤の日にもらっていた。

 伯睿の交際発覚は貴賓翡翠の評判や株価などにも影響することから、二人の関係は絶対に秘密。

 だから毎日こっそり一人でエレベーターに乗り、このカードキーを翳している。するとセキュリティの厳しい、副社長専用の地下駐車場フロアに到着することができるのだ。

 このカードキーを使えば、途中で扉が開くことはないので、到着階まで誰かと乗り合わせることは絶対にない。
 エレベーターはエレベーターホールに十二台も設置されているので、《お先にどうぞ》と誰かを待つふりをしながら過ごせば、大抵すぐに一人きりで乗ることができた。


 一花は初めての副社長室に躊躇しながら、扉をノックした。「どうぞ」と室内から促されて入室する。

 副社長室は、一人で仕事をする場所にしてはとても広く感じられた。入り口付近に設置された応接用のソファやセンターテーブルの何歩も奥に、伯睿の居るデスクがある。

 冷徹な表情の伯睿に言われるがままソファに腰掛けると、こっそり室内を見回した。広い窓には、アイボリーのシェードカーテンが閉められている。

「……この通り、ここには貴賓室のように監視がありませんから――」

 伯睿の座っていたチェアが、キィと音を立てた。
 一花はハッと顔を上げる。

 伯睿が緩慢な動作で立ち上がると、スーツのジャケットを脱ぎ、その背もたれに引っ掛けた。

 静かに一花の方へ向かいながら、シャツの手首のボタンを開ける。
 キッチリ結んでいたネクタイの結び目に指をかけ、左右にくいっと動かしながら緩めていき――
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