妄想は甘くない
「想い出づくりなんてさぁ……相手からしたら、やり逃げも同然じゃん。女だから許されるわけでもないんじゃない」
厳しい返答が脳裏を回ると、浮かび上がって来た。
それは、以前大神さんに感じたことだと。
“わたしの気持ちなんて慮られることもない”
胸に熱く何かが迫り来るような感覚を抱き、目元を歪める。
膝の上の拳に力が篭り、重い口を開いて絞り出した。
「…………だって、お別れする日が来るのは、辛いんだもん……」
僅かに流れた沈黙を切って、告げられた。
「……ずっと一緒に居たいって思ってないと、続いて行かないし、結婚も出来ないよ」
頭上から響いた静かな声に、俯けていた顔をゆっくりと上げる。
予想に反して、落ち着きのある優しい瞳が揺れていて、わたしも目を細めた。
「結婚はゴールじゃないだろうし、別れないって保証になるわけでもない。それでも一緒に生きて行きたいって、意志があるからするんだよ。……と、私は思う」
ゆっくりと瞬きした瞳は、わたしと暫く目線を合わせた後、湯呑みの中身を飲み干して立ち上がった。
「……ま、私が口出す話じゃないけどね。土曜日は、どうぞよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げてから、去って行った。