妄想は甘くない
パイプオルガンの美しい音色が響き渡る。
ひとまず近藤の晴れ姿に集中しようと、頭から追い出す努力をした。
入場して来たタキシードを纏った男性が目に映ると、遠い朧気な過去を彷彿とさせた。
新郎の綿部《わたべ》さんは近藤と同じ経理部の先輩だとしか認識していなかったが、よくよく記憶を辿れば、数年前に支社から異動して来たと聞いていた気がした。
そんな散漫な脳内も、彼女が現れると瞬く間に何処かへ吹き飛び、釘付けとなった。
吸い込まれるように、純白の優美な装いから目が離せない。
「健やかなる時も病める時も、生涯愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
カメラを構えながらもうっとりと堪能していると、気付けば最大の見せ場を迎えていた。
赤いバージンロードに映えるロングトレーンの後ろ姿から近藤の声が響くと、胸が詰まって涙を誘った。
「誓いのキスを」
新郎が彼女の顔に唇を寄せ、シャッター音が次々に耳を掠める。
『ずっと一緒に居たいって思ってないと、続いて行かないし、結婚も出来ないよ』
近藤の言葉の重みを感じながら、ふたりを拍手で送り出す。
参列者へ会釈しながら退場して行く花嫁は、これまでで一番幸せそうな笑みを浮かべていた。