妄想は甘くない

大神さんはわたしのことなんて綺麗に忘れて、いずれあの子と付き合うかもしれない。

受付台に用意された席次表に改めて目を通すと、その名前を発見した。
開始から程なくして、新郎側の列へやって来た彼を横目で認めた。

仕事を熟すだけで手一杯だったが、芳名帳にペンを走らせる大神さんの姿が一瞬視界を掠めると、余りに絵になる佇まいに胸を打たれてしまう。
通常の勤務時とは異なる、ジャケットにベストを合わせたフォーマルな装いが、よく似合っていた。

ほんの僅か気を抜いた隙に、去り際の彼と視線が合わさってしまった。
またしても大きく鳴り始めた鼓動と、火照って来た顔を自覚する。

何を今さら、ドキドキしてるんだろう。
想い出にするって、決めたんでしょ?

胸の内で言い聞かせながら、作業する手元がもたつかないよう気を配った。

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