妄想は甘くない

照らし出された入場口に注目しながらも、混乱し始めた頭を感じ取った。
……今の会話の流れって何だろう。もしかして……。

『結婚を前提に付き合って』

矢野くんの話の続きを妄想して表情を引き攣らせると、まさかと首を横に振った。

息を吐き出し、騒ぐ心を落ち着けようと試みながら、シャッターを切る。
ゆっくりと円卓の周りを歩く新郎新婦を目で追っていると、数メートル先の大神さんが視界にちらついて、益々動揺を誘った。
結婚なんて、わたしにはとても……胸を掠めると、僅かに瞼を伏せて眉間を寄せた。

食事を楽しみ、高砂へ出向いて記念撮影をしたりしている内に、幾らか冷静さを取り戻した。
新郎新婦が中座し、プロフィールムービーが流れた後、司会者がふたりのエピソードを紹介する。

「新郎新婦は、この結婚披露宴の準備の際、意見や考え方がぶつかり合うことも多かったそうです。しかし、無事に晴れの日を迎えられ、それすらも掛け替えのない想い出になったとのこと。新郎、悠太《ゆうた》さんは……」

近藤の実感を伴った想いが、重く胸に迫るようだった。
思えば随分と、人と本心で向き合うようなことを避けて来た。

空気を読み顔色を読み、頼まれれば断らず、自分の主張はせず、つまらない大人になってしまった。

それは傷付かない代わりに、何も手に入らない人生。
何の経験も、感動も、人間関係も、何も

『欲しい』と声を上げれば、拒否されて傷付くから──……

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