妄想は甘くない
熱く鼓動を打っている心を察知しながら、魚料理の皿へと落としていた視線を、避けていた彼へそろりと滑らせた。
先程の女の子と楽しそうに談笑していたかと思うと、おもむろに立ち上がった。
こちらへ向かって足を踏み出した人から、思わず目線を逸らした。
速まる心音に胸元を押さえたくなったが我慢して、代わりにナイフを握る手に力が篭った。
大神さんは、わたしの背後を擦り抜け出入口の外へ姿を消した。
その一瞬に、微かに残った香りに心惹かれて振り向き、扉を見据えたまま瞠目する。
その香りにいざなわれ、気付けば腰を上げ足を動かしていた。
吸い寄せられるかのように、踏み出す一歩は小走りになり、扉に手を掛ける。
ネタにして小説を書いても許してくれて、自分を受け入れてくれた。
すれ違う、合わない部分もある、それでも気持ちは言わなければ伝わらない。
もう間に合わなかったとしても──
明るく開けた視界の先の、教会の前を彼は歩いていた。
走るヒールの音を拾って、その端正な顔が振り返った。