妄想は甘くない
何を言われているのか理解出来ないまま、更に畳み掛けられた言葉に耳を疑う。
「宇佐美さんってさー……エロいんだよね、なんか」
「……えっ……えぇっ!?」
真面目な顔で繰り出された台詞は、まさか王子様が絶対に口にしないはずの破廉恥な単語。
頭の混乱も最高潮となり、わたしは真っ赤に染まり上がった顔で反論も声にならず、口をぱくぱくさせた。
後ずさった膝の裏に、休憩用の椅子の座面がぶつかり、転倒しそうになったわたしの腰を大きな手が支える。
「おっと」
際どい箇所に触れられて、背後に感じるごつごつした指の感触に、何の抵抗も示せない程に身体を強ばらせてしまう。
チャンスとばかりに顔を至近距離へ寄せた彼が呟く。
「……前から、すっげそそられんなって思ってたんだよね。このうなじとか」
顔を覗き込んだ彼の目に、自分が映って見えるくらいに、近過ぎる。
左手は腰へ回されたまま、頬へ僅かに触れた右手が空を切ったかと思うと、次の瞬間首筋に顔が埋められた。
「──っあ」
触れた唇の湿度を感じ取ると、肩が跳ね背筋に電気が走ったようだった。
勢い余って背後のテーブルに手を付き、よろめく身体をどうにか立て直そうと試みたが、脚がもつれてヒールが音を鳴らした。
「うわ、良い反応」
薄く微笑んで見せた彼の顔付きは、何処となく先程までと違う色が瞳に宿されたように感じ、茹で上がった頬に冷や汗が流れた。