妄想は甘くない

「あのね、何度も言ってるんだけど、もう少し具体的に聞き取りして欲しいんだ」

きちんと目を見て告げた口調は落ち着いたものであった筈だが、彼女の面立ちはみるみるうちに歪み、戸惑いの滲んだ震えたような声が紡ぎ出された。

「……助けて貰えないんですか？」

想定外の返答が衝撃的で、目を見開いたまま暫し動けなかった。

「……いやあの、それは電話応対の基本でね……」

意に反するものであったと推測されるわたしの声を、聞いているのかいないのか、一点を見つめたまま戦慄く唇を噤んで押し黙ってしまった。
俯いた彼女が涙を堪えていることが伝わり、こちらが打ちのめされてしまう。

……わたし、そんなにおかしなことを口にしただろうか。

「……そういうこと言ってるんじゃないんだよ……」

伝染した空気に気圧される中、やっとのことで絞り出し返したが、後の言葉が続かなかった。
一旦福地さんとは距離を置き、そこからは自らの仕事をミスなくこなすことに力の限りを傾けた。

心をえぐられてしまい、その場を切り抜けるだけで、ぎりぎりいっぱいだったのだ。