妄想は甘くない
「宇佐美さん、営業の大神さんから外線入ってます」
「……ありがとうございます」
不意に女性社員から電話を振られ、モニターの納品書に集中していた頭が引き戻された。
こんな時に限ってと頭を過ぎったが、そこは仕事だ。
何より、先日の大神さんとのいざこざを気にしている心の余裕すらなかった。
「お電話代わりました、宇佐美です」
『お疲れさまです、大神です。先程お客様から、入金したのにされてないという電話が入ったとお伺いしまして、ちょっと苦情になりかけているので、確認させて下さい』
福地さんの架電の件だろうと、すぐに察しが付く。
そのまま少し待機して貰い、システムの表示に再度目を通した。
「画面上では、入金確認取れてないです。もしかしたら、他の請求に充ててしまってるかもしれないので、再度確認してご連絡します」
『口座名が違ってるんですかね』
「おそらく」
僅かに思案するような空気を醸した後、続けられた彼の言葉に、観念して息を呑む。
『原因を把握したいので、システムの打出しか何か、資料を頂けないですか』
「……わかりました。用意します」
『5時頃には社へ戻りますので、うちのフロアの端の休憩スペースへ来て頂けませんか。自販の所です』