妄想は甘くない
これまでをよくよく振り返ってみれば、大方一方的に事を進められていると身に染みて、渋い顔をした。
異論のひとつも唱えてやりたかったが指定されてしまった以上仕方なく、その華麗な高層建物のエントランスホールへ向かった。
壁に掲げられたレストランブッフェやブライダルフェアの案内の横を擦り抜け、ソファに腰を下して傲慢な人の到着を待つ。
少しばかり手持無沙汰に周辺を眺め回していたが、不意に目の端を過った男性に一抹の既視感を覚え、再度目を凝らした。
「…………」
自分の目が次第に見開かれたのが解って、想起されたひっ迫感に追い立てられ顔を背ける。
途端冷や汗が流れ、俯けた目に映り込んだ握った拳から、ドクドクと速まる脈拍が身体の中心に響いた。
相手に気付かれないよう恐る恐る顔を上げ、もう一度横目に入れた。
──間違いなさそうだ。