『 』
荷をまとめに宿舎へと歩いていくウィルを走って追いかけた。
伝えなければならない自分のことを。
自分とウィルのことについてを。それを思い必死で追いかけた。
「おじさん!!」
やっと追いつき声をかけた。
何も言わないが険しい表情で振り向いたウィルにアイカは少し戸惑ったが頭を下げた。
なんの行動かわからずウィルは苛立たしげに怒鳴った。
「お前など…お前などアレグリーアに帰れ!!あそこは何もかもある喜びの国だろう!!わざわざクイダードに来る意味なんぞ無かっただろう!!」
行き場のない怒りのようなものを腹に抱えている人だとなんとなく分かった。
「喜びの国…そんなものではありません…」
振り絞って出したこの言葉に心が引きちぎれる思いだった。
「私は2年前のあの戦争で孤児になりました。喜びの国と…人々の笑顔が耐えない恵まれた国だと…他国に見えているのは主要都市のみ…。蓋を開ければ貧富の差が激しく戦後は孤児が増え職を無くすもの病に犯されるものと華やいだものとは縁もありません。
…………私はこのクイダードこそ喜びの国だと思おました。祖国アレグリーアこそ憂いの国だと…。貴方への哀れみや慰めでこんなことが言えたなら私は救われたでしょう。
でもこれは哀れみでも慰めでもない…事実なのです。」
たわわと目に浮かんだ涙をこぼすまいと堪えウィルの目を見つめて話した。
街の貴族たちにひどい目に遭わされたこと。
城下町の人々に食事を分けてもらっていたこと。
橋の下や路地で雨風をしのぎボロボロの毛布にくるまって上を凌いだ2年の間を話して聞かせた。
親を失くした子供たちが身を寄せあって寒さや上を耐えているのが『ヨロコビの国アレグリーア』なのだと。
ウィルは黙って聞いてはいたがその顔に納得の表情は浮かばなかった。
「子供が飢え貴族が豪を楽しんでおる…だと?」
「はい…それが私の国アレグリーアです…」
「そんなことはない!!
俺が昔…妻と子を連れてアレグリーアを訪れた時、皆裕福に暮らしていた。俺を受け入れたあの家だって…」
「……4年前の夏、あなたは私の家にお越しになりました。
私とあまり変わらない女の子と奥さんをお連れになって…。あの子は娘さんでしたね。
名前は…サヤカといいましたか…」
確かに裕福だった。あの戦争までは。
庭のある大きな家でママはよくお菓子を焼いてくれた。
パパは忙しい合間を縫って遊んでくれた。
そこにやってきたのが…このウィルの一家だ。
サヤカとは年も近くすぐに仲良くなり共によく遊んだ。
その当時のウィルは働き者で物腰も柔らかくひどく優しい印象の男だった。
よくマジックを見せてくれたのが印象に残る男だ。
「マジックを…小さい頃サヤカと共によくマジックを見せてもらっていました。
私を覚えてはおられませんか……?」
ウィルは何も言わなかったがシゲシゲとアイカの顔を見つめ、すぐに閃いたと言わんばかりの顔をした。
「あの時の子か……あの時の…サヤカとよく遊んでくれたあのアイカちゃんかよく覚えているとも。可愛らしい子だった。サヤカもよく嬉しそうに君の話をしていた…」
懐かしむように涙ぐんなぼ柄かな表情はだが一瞬にして険しさを戻した。
「だが…お前があの子であったとしても妻とサヤカは戻らない…」
「あの日…お前の家を出たあの日…私たちはクイダードとアレグリーアの国境にまっすぐ向かった滞在時間を推していたからだ。
サヤカがどうしてもお前から離れなくて時間が過ぎる一方でやっと引き離したのは残り1時間というところだった。お前の父親に国境近くまで送ってもらい走って国境線についた時には遅くアレグリーアの兵に滞在期間を聞かれ正直に答えたのに…不法入国者だと撃たれたんだ…サヤカを抱えた妻が。私はもう倒れて動かなくなった妻とサヤカをかばいに近づくことも出来ず目の前の兵から銃を奪ってクイダードに逃げ込んだんだ。ほんの…ほんの1分の遅刻だった。バツは受けたどんなバツでも…何も…殺さなくても…」
想像を絶する話に言葉を失った。
歳はアイカの2つ上だったか、とても仲のよく一緒に風呂に入ったり枕を共にしたり姉妹のように過ごしたことを覚えている。
「それが…あなたが…アレグリーア人を嫌う理由…ですか?」
「あぁ……」
2年に1度はうちに来ていたあの一家が
一昨年の夏には来なかったおかしいと思い手紙を出したが返事はなかったためそのままにしていた。
まさか、そんなことが起こっていたなんて…
「奥さんとサヤカの亡骸は…」
「分からねぇ…どこにあるのか…火葬されたのか土葬されたのかどこぞに捨て置かれたのか…何もわからねぇ……」
「おじさん…」
何も言うことが出来なかった。
この人は愛する人を目の前で失ったのだ。自分には何も出来ない無力さにただ肩を落とした。
「悪かったなぁ…君があの時の子だとも忘れてひどい仕打ちを…手ぇ痛かっただろう…」
「そんな!!私には働き口があるだけでもありがたいことですから…」
「君の御両親は…あの戦争で…?」
「はい、あの時に。」
「そうか…」
それ以上の会話はなかったがしばらくふたりでそこにそうしていた。
日が頂上に登ろうとしていた時グラシアがやってきた。
「2人してそんなところに突っ立ってないでさっさと仕事にかかりな!!働かないなら給金はなしだよ!!」
「女将さん…俺ぁ…」
「早くしな!!お客が待ってんだよ!!」
グラシアという人はとても優しい人だ。きついことを言っても結局は上に負けて世話を焼いてくれる。だからここの奉公人はグラシアには心を開いているんだろうと思う。
伝えなければならない自分のことを。
自分とウィルのことについてを。それを思い必死で追いかけた。
「おじさん!!」
やっと追いつき声をかけた。
何も言わないが険しい表情で振り向いたウィルにアイカは少し戸惑ったが頭を下げた。
なんの行動かわからずウィルは苛立たしげに怒鳴った。
「お前など…お前などアレグリーアに帰れ!!あそこは何もかもある喜びの国だろう!!わざわざクイダードに来る意味なんぞ無かっただろう!!」
行き場のない怒りのようなものを腹に抱えている人だとなんとなく分かった。
「喜びの国…そんなものではありません…」
振り絞って出したこの言葉に心が引きちぎれる思いだった。
「私は2年前のあの戦争で孤児になりました。喜びの国と…人々の笑顔が耐えない恵まれた国だと…他国に見えているのは主要都市のみ…。蓋を開ければ貧富の差が激しく戦後は孤児が増え職を無くすもの病に犯されるものと華やいだものとは縁もありません。
…………私はこのクイダードこそ喜びの国だと思おました。祖国アレグリーアこそ憂いの国だと…。貴方への哀れみや慰めでこんなことが言えたなら私は救われたでしょう。
でもこれは哀れみでも慰めでもない…事実なのです。」
たわわと目に浮かんだ涙をこぼすまいと堪えウィルの目を見つめて話した。
街の貴族たちにひどい目に遭わされたこと。
城下町の人々に食事を分けてもらっていたこと。
橋の下や路地で雨風をしのぎボロボロの毛布にくるまって上を凌いだ2年の間を話して聞かせた。
親を失くした子供たちが身を寄せあって寒さや上を耐えているのが『ヨロコビの国アレグリーア』なのだと。
ウィルは黙って聞いてはいたがその顔に納得の表情は浮かばなかった。
「子供が飢え貴族が豪を楽しんでおる…だと?」
「はい…それが私の国アレグリーアです…」
「そんなことはない!!
俺が昔…妻と子を連れてアレグリーアを訪れた時、皆裕福に暮らしていた。俺を受け入れたあの家だって…」
「……4年前の夏、あなたは私の家にお越しになりました。
私とあまり変わらない女の子と奥さんをお連れになって…。あの子は娘さんでしたね。
名前は…サヤカといいましたか…」
確かに裕福だった。あの戦争までは。
庭のある大きな家でママはよくお菓子を焼いてくれた。
パパは忙しい合間を縫って遊んでくれた。
そこにやってきたのが…このウィルの一家だ。
サヤカとは年も近くすぐに仲良くなり共によく遊んだ。
その当時のウィルは働き者で物腰も柔らかくひどく優しい印象の男だった。
よくマジックを見せてくれたのが印象に残る男だ。
「マジックを…小さい頃サヤカと共によくマジックを見せてもらっていました。
私を覚えてはおられませんか……?」
ウィルは何も言わなかったがシゲシゲとアイカの顔を見つめ、すぐに閃いたと言わんばかりの顔をした。
「あの時の子か……あの時の…サヤカとよく遊んでくれたあのアイカちゃんかよく覚えているとも。可愛らしい子だった。サヤカもよく嬉しそうに君の話をしていた…」
懐かしむように涙ぐんなぼ柄かな表情はだが一瞬にして険しさを戻した。
「だが…お前があの子であったとしても妻とサヤカは戻らない…」
「あの日…お前の家を出たあの日…私たちはクイダードとアレグリーアの国境にまっすぐ向かった滞在時間を推していたからだ。
サヤカがどうしてもお前から離れなくて時間が過ぎる一方でやっと引き離したのは残り1時間というところだった。お前の父親に国境近くまで送ってもらい走って国境線についた時には遅くアレグリーアの兵に滞在期間を聞かれ正直に答えたのに…不法入国者だと撃たれたんだ…サヤカを抱えた妻が。私はもう倒れて動かなくなった妻とサヤカをかばいに近づくことも出来ず目の前の兵から銃を奪ってクイダードに逃げ込んだんだ。ほんの…ほんの1分の遅刻だった。バツは受けたどんなバツでも…何も…殺さなくても…」
想像を絶する話に言葉を失った。
歳はアイカの2つ上だったか、とても仲のよく一緒に風呂に入ったり枕を共にしたり姉妹のように過ごしたことを覚えている。
「それが…あなたが…アレグリーア人を嫌う理由…ですか?」
「あぁ……」
2年に1度はうちに来ていたあの一家が
一昨年の夏には来なかったおかしいと思い手紙を出したが返事はなかったためそのままにしていた。
まさか、そんなことが起こっていたなんて…
「奥さんとサヤカの亡骸は…」
「分からねぇ…どこにあるのか…火葬されたのか土葬されたのかどこぞに捨て置かれたのか…何もわからねぇ……」
「おじさん…」
何も言うことが出来なかった。
この人は愛する人を目の前で失ったのだ。自分には何も出来ない無力さにただ肩を落とした。
「悪かったなぁ…君があの時の子だとも忘れてひどい仕打ちを…手ぇ痛かっただろう…」
「そんな!!私には働き口があるだけでもありがたいことですから…」
「君の御両親は…あの戦争で…?」
「はい、あの時に。」
「そうか…」
それ以上の会話はなかったがしばらくふたりでそこにそうしていた。
日が頂上に登ろうとしていた時グラシアがやってきた。
「2人してそんなところに突っ立ってないでさっさと仕事にかかりな!!働かないなら給金はなしだよ!!」
「女将さん…俺ぁ…」
「早くしな!!お客が待ってんだよ!!」
グラシアという人はとても優しい人だ。きついことを言っても結局は上に負けて世話を焼いてくれる。だからここの奉公人はグラシアには心を開いているんだろうと思う。