『 』
朝、馬の嘶きで目が覚めた。
朝日がまだ山にかかっているためそこまで寝すぎたことはないだろう。
昨日グラシアに教わった水場へ行き顔を洗って歯を磨いた。
すぐに身支度を済ませて店へと向かったら
まだ人数が揃っていないのか眠そうに奉公人たちが各々好きな場所で朝の休息を楽しんでいた。
半時程すると奉公人のすべてが集まりグラシアも表へ出てきた。
「みんなおはよう。今日からアイカが働くことになったからね。皆が危惧していたようなことはないことを昨日アタシがあいかに聞いて確認済だから仲良くしてやんな
今日も元気に張り切って働くよ!!」
奉公人は返事とともに持ち場に向かったが
どこへ行けばいいのかわからないアイカに近寄ってきたのはあのジョンだ。
口数はないが「こっち」とだけ言って歩き出したので一瞬戸惑ったが走ってあとを追った。
アイカがまず任されたのは洗濯と食器洗いだった。奉公人たちは汚れていない仕事着までもをホコリがついてる汚れが落ちていないなどとケチをつけて一日では到底終わらないような量を押し付けた。洗濯をするさなかにも食器を洗いに行ったりなどもしなければならない。
その食器洗いにも奉公人たちはケチをつけ何度もやり直しをさせた。
それでも文句一つ言わずに黙ってこなすことしか出来なかった。雇ってもらった身分でアイカにとってはみな先輩であったからだ。
こんな冬の中選択作業を続けるには手がこわばり過ぎて思うように作業ができなかったがそれでも一生懸命、仕事着を洗っていた。
そんな勤務の日々が続いたある日、グラシアに呼ばれた。
怒られるのかクビと言われるのかとビクビクしながらグラシアの元に行くとほかの奉公人も勢ぞろいしていていつも自分が近寄ると豪快な笑顔を見せる女主人の顔に笑顔はなく険しい面持ちだった。
「…ただいま、参りました。」
怖くてそれ以上のことは言えなかった。
座りな。とグラシアの隣を指され恐る恐るという感じにそこに座った。
「手を見せなさい。」そう言われたが奉公人たちの刺すような視線に手を出すことは出来なかった。
するとグラシアは無理矢理にアイカの手を前に引っ張り出した。
アカギレ、霜焼け、で傷だらけになった幼い手がそこにあった。
「ジョン、この子はなんの仕事だい?
アタシはこの子に何をさせろとお前に言った?」
あの青年は黙っていたが、やがて「接客を。」と短く答えた。
「接客を担当するようなこの手がなんでこんなに傷だらけになるんだい。
アイカお前はここに務めた2週間なにをしてたんだい?奉公人の目線は気にせずにワサアタシに話してごらん」
アイカと呼ぶ時はとても優しい声だった。
「皆さんの…皆さんの…仕事着お…を…洗濯…したり…み…店で…使った、食器を…洗ったり…し…して…おりまし…た……」
どうしても言葉をうまく紡げず震えた青い顔を俯かせることしか出来なかった。
言われたことと違うことをしていたと気づき怒られるのだ。もうここにはいられないのだ。と落胆だった。
まだお給金も貰えていないのに。これじゃ旅を続けられない…
まとまったお金が貯まるまではここを拠点にしようと思っていたのに…
また新しい奉公先を探さなければいけない…
こんなに良くしてくれたグラシアさんに背いてしまった。と心苦しくなっていた。
「…………誰だい。アタシの指示を無視してこの子に別の仕事を押し付けたのは。正直に名乗り出な。」
最初こそ誰も出てこなかった。我関せずといった態度の奉公人にグラシアは小さくしかししっかりと「ジョン」と言った。
黙っていた青年が静かに指さしたそれはアイカを受け入れることをいちばんに反対していたあの男だった。
「ウィルか」
4.50位の痩せた意地悪そうな顔の男だ。
なんと言われてアイカをその仕事につかせたのか説明しろ。と言われたジョンは黙って頷き口を開いた
「昨日今日入ったような新人に客の相手なんざさせられるか!!洗濯と洗い物でもさせとけ!!ここの長は俺だ!!俺が決める!!
……一言一句勢いに至ってまで間違いはございません。」
細身の青年はそう答えた。
黒い髪……アレグリーアの民だ…
アレグリーアの民はみんな黒い髪をこよなく愛しその艶や美しさを競う大会なども行われている。
打って変わってクイダードの民は皆一様に髪が赤い。くすんだ赤から発色のいい赤まで個人差はあるが皆とにかく赤色なのだ。
国によって髪の色が違うのは有名だその土地の象徴色として祀られる
髪の色で赤の国や黒の国と呼ばれることもある。
青の国や黄色の国と呼ばれる国もある。
このジョンという少年も黒の髪であるということはアレグリーアの民だということだ。
艶のある美しい長髪を後ろでひとまとめにしている。
アイカもたまに見惚れるほどだ。
「ウィルなんのつもりだい?
アンタが調理場の長だって?アタシはジョンに調理場を任せていたはずだよ!?」
「…アレグリーアの人間にクイダードの食の長なんか任せられるか」
「なんだって!?腕のないやつが長を名乗るんじゃないよ!!ウィル!!アンタの勝手な行動にはほとほと愛想が尽きた!!今すぐ荷物まとめて出ていきな!!」
「い、いや!!そんな女将さん!!」
「アタシは何も聞きゃしないよ!!」
ウィルと呼ばれた男とグラシアのいい争いの間、アイカは悩んでいた。
自分のせいで店がめちゃくちゃになってしまった。自分が来たせいだ。と
動けず俯いているところにジョンが近寄ってきた。
「気にしなくていい。あの二人のいざこざはあの人が働きに来た時からのことなんだ。
珍しい事ではない。」
そう言われても心は晴れなかった。
が、ふと思い出した。
4年前の夏
家に1ヶ月ほど滞在したある家族のことを。
弾かれたように立ち上がり走り出した。
朝日がまだ山にかかっているためそこまで寝すぎたことはないだろう。
昨日グラシアに教わった水場へ行き顔を洗って歯を磨いた。
すぐに身支度を済ませて店へと向かったら
まだ人数が揃っていないのか眠そうに奉公人たちが各々好きな場所で朝の休息を楽しんでいた。
半時程すると奉公人のすべてが集まりグラシアも表へ出てきた。
「みんなおはよう。今日からアイカが働くことになったからね。皆が危惧していたようなことはないことを昨日アタシがあいかに聞いて確認済だから仲良くしてやんな
今日も元気に張り切って働くよ!!」
奉公人は返事とともに持ち場に向かったが
どこへ行けばいいのかわからないアイカに近寄ってきたのはあのジョンだ。
口数はないが「こっち」とだけ言って歩き出したので一瞬戸惑ったが走ってあとを追った。
アイカがまず任されたのは洗濯と食器洗いだった。奉公人たちは汚れていない仕事着までもをホコリがついてる汚れが落ちていないなどとケチをつけて一日では到底終わらないような量を押し付けた。洗濯をするさなかにも食器を洗いに行ったりなどもしなければならない。
その食器洗いにも奉公人たちはケチをつけ何度もやり直しをさせた。
それでも文句一つ言わずに黙ってこなすことしか出来なかった。雇ってもらった身分でアイカにとってはみな先輩であったからだ。
こんな冬の中選択作業を続けるには手がこわばり過ぎて思うように作業ができなかったがそれでも一生懸命、仕事着を洗っていた。
そんな勤務の日々が続いたある日、グラシアに呼ばれた。
怒られるのかクビと言われるのかとビクビクしながらグラシアの元に行くとほかの奉公人も勢ぞろいしていていつも自分が近寄ると豪快な笑顔を見せる女主人の顔に笑顔はなく険しい面持ちだった。
「…ただいま、参りました。」
怖くてそれ以上のことは言えなかった。
座りな。とグラシアの隣を指され恐る恐るという感じにそこに座った。
「手を見せなさい。」そう言われたが奉公人たちの刺すような視線に手を出すことは出来なかった。
するとグラシアは無理矢理にアイカの手を前に引っ張り出した。
アカギレ、霜焼け、で傷だらけになった幼い手がそこにあった。
「ジョン、この子はなんの仕事だい?
アタシはこの子に何をさせろとお前に言った?」
あの青年は黙っていたが、やがて「接客を。」と短く答えた。
「接客を担当するようなこの手がなんでこんなに傷だらけになるんだい。
アイカお前はここに務めた2週間なにをしてたんだい?奉公人の目線は気にせずにワサアタシに話してごらん」
アイカと呼ぶ時はとても優しい声だった。
「皆さんの…皆さんの…仕事着お…を…洗濯…したり…み…店で…使った、食器を…洗ったり…し…して…おりまし…た……」
どうしても言葉をうまく紡げず震えた青い顔を俯かせることしか出来なかった。
言われたことと違うことをしていたと気づき怒られるのだ。もうここにはいられないのだ。と落胆だった。
まだお給金も貰えていないのに。これじゃ旅を続けられない…
まとまったお金が貯まるまではここを拠点にしようと思っていたのに…
また新しい奉公先を探さなければいけない…
こんなに良くしてくれたグラシアさんに背いてしまった。と心苦しくなっていた。
「…………誰だい。アタシの指示を無視してこの子に別の仕事を押し付けたのは。正直に名乗り出な。」
最初こそ誰も出てこなかった。我関せずといった態度の奉公人にグラシアは小さくしかししっかりと「ジョン」と言った。
黙っていた青年が静かに指さしたそれはアイカを受け入れることをいちばんに反対していたあの男だった。
「ウィルか」
4.50位の痩せた意地悪そうな顔の男だ。
なんと言われてアイカをその仕事につかせたのか説明しろ。と言われたジョンは黙って頷き口を開いた
「昨日今日入ったような新人に客の相手なんざさせられるか!!洗濯と洗い物でもさせとけ!!ここの長は俺だ!!俺が決める!!
……一言一句勢いに至ってまで間違いはございません。」
細身の青年はそう答えた。
黒い髪……アレグリーアの民だ…
アレグリーアの民はみんな黒い髪をこよなく愛しその艶や美しさを競う大会なども行われている。
打って変わってクイダードの民は皆一様に髪が赤い。くすんだ赤から発色のいい赤まで個人差はあるが皆とにかく赤色なのだ。
国によって髪の色が違うのは有名だその土地の象徴色として祀られる
髪の色で赤の国や黒の国と呼ばれることもある。
青の国や黄色の国と呼ばれる国もある。
このジョンという少年も黒の髪であるということはアレグリーアの民だということだ。
艶のある美しい長髪を後ろでひとまとめにしている。
アイカもたまに見惚れるほどだ。
「ウィルなんのつもりだい?
アンタが調理場の長だって?アタシはジョンに調理場を任せていたはずだよ!?」
「…アレグリーアの人間にクイダードの食の長なんか任せられるか」
「なんだって!?腕のないやつが長を名乗るんじゃないよ!!ウィル!!アンタの勝手な行動にはほとほと愛想が尽きた!!今すぐ荷物まとめて出ていきな!!」
「い、いや!!そんな女将さん!!」
「アタシは何も聞きゃしないよ!!」
ウィルと呼ばれた男とグラシアのいい争いの間、アイカは悩んでいた。
自分のせいで店がめちゃくちゃになってしまった。自分が来たせいだ。と
動けず俯いているところにジョンが近寄ってきた。
「気にしなくていい。あの二人のいざこざはあの人が働きに来た時からのことなんだ。
珍しい事ではない。」
そう言われても心は晴れなかった。
が、ふと思い出した。
4年前の夏
家に1ヶ月ほど滞在したある家族のことを。
弾かれたように立ち上がり走り出した。