軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う


「自由になりたい……」


 こぼれるように出た言葉だった。

 一度口にすると、津波のように隠していた願いが押し寄せてきて、どうしようもなくなる。


 あとは押し流されるまま、「広い世界を見たい」、「夢を見つけてみたい」、「誰かと愛し合ってみたい」と、想いが次々に口から飛び出していく。


「私も連れて行って、レイヴン」


 意を決して答えると彼は満足そうに頷き、口元に不敵な笑みを浮かべる。


 その表情に心臓がドキンッと跳ねて目を奪われていると、恭しく一礼をしたレイヴンに掬うように手を取られ甲に口づけられた。


「誓おう、セレア」


 どうやって自由にしてくれるのか、彼を危険な目に合わせやしないだろうか。色んな不安が胸の中で渦巻いていた。


 けれど、この人ならきっと誓いを守ってくれるだろう。どこまでも自分を連れ出してくれると、そう信じられる。そんな確信があったから、繋がれた手を強く握り返して迷わずについていこうと思えた。

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