軍人皇帝はけがれなき聖女を甘く攫う
「命を救ってくれたお前に恩を返したい。だから俺が、お前の願いを叶えてやる」
「私の願いは、誰にも叶えることはできません」
(私が望むもの、それはただひとつ〝自由〟だけ)
手に入らないから、今まで考えないようにしていた。
けれど、他国の出身で思想も考えも柔和で、掟をくだらないと言ってのけるレイヴンと出会った。彼はセレアの望む自由そのもので、焦がれないはずがなかったのだ。
「どんなに無謀で許されないと諦めたものでも、俺がこの命を懸けてお前に与えよう」
「レイヴン……」
「俺を信じろ」
強い意志を感じさせる、ヴァイオレットの真摯な瞳が向けられる。その美しさと曇りのない想いに息を呑んだ。
(信じても、いいの?)
それで彼を危険な目に合わせても、望んでもいいのだろうか。
不安に揺れた瞳で、彼を見つめると手を強く握られる。それに背中を押された気がした。