きれいな水と不純なわれら
「あとで怒って」


乾いた唇が、額に触れた。


ほんの一瞬で離れて、また目の前に彼の瞳が現れる。


そして、かさついた肌さわりをわたしは自分の唇に感じた。


熱い。熱い。それなのに、わたしは凍りついて動けない。


彼は寂しそうな笑みを浮かべた。


「……少しくらい、動揺してよ」





気がつくと、木嶋さんはわたしの前から消えていた。


わたしは、まだ、動けない。


わたしが触れた箇所は熱を帯びて、胸の奥を揺るがした。ファーストキスではないけれど、何も感じないはずの心が、僅かに流動する。その場に座り込んでそれを鎮めようとする。


これを認めてしまったら、きっと止まらなくなる。今まで押し殺していたものも全て、溢れ出してしまう。長い時間をかけてようやく手に入れた安寧が、崩れてしまう。わたしはわたしが思う以上に脆く、自分以外のことを考えられるほどの余裕がない。


あの瞳の理由を知る頃には、今と違うわたしになっているだろうか。


ボトルの水、部屋の空気。


全てが沈み廃れる中で、わたしの胸の奥だけが熱くうごめいていた。





 END


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