鬼の生き様


 決行は辰ノ刻(8時)に行われた。

 信正老中の行列が登城するため藩邸を出て坂下門外に差しかかると、水戸藩浪士の平山兵介、小田彦三郎、黒沢五郎、高畑総次郎。
下野の医師である河野顕三と越後の医師、河本杜太郎の6人の志士が行列を襲撃した。

 水戸藩士、川辺左次衛門も計画に参加していたのだが、遅刻したため襲撃に参加出来なかった。

 最初に直訴を装って河本杜太郎が行列の前に飛び出し、駕篭を銃撃した。
弾丸は駕篭を逸れて小姓の足に命中、この発砲を合図に他の五人が行列に斬り込んだ。
警護の士が一時混乱状態に陥った隙を突いて、平山兵介が駕籠に刀を突き刺し、信正は背中に軽傷を負って一人城内に逃げ込んだ。

 桜田門外の変以降、老中はもとより登城の際の大名の警備は軒並み厳重になっており、当日も供回りが五十人以上いたため、浪士ら六人は暗殺の目的を遂げることなく、いずれも闘死した。

警護側でも十数人の負傷者を出したが、死者はいなかった。

遅刻した川辺は長州藩邸に斬奸趣意書(ざんかんしゅいしょ)を届けた後、切腹したという酷い事件である。


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