鬼の生き様


 その日から山口は試衛館で匿われている。
一人にしておくのも危ないし何かと不便であろうということで、源三郎は介添人(かいぞえにん)のつもりで山口に付き添っていてほしいと歳三に頼まれた。

 源三郎と山口を除く他の試衛館一同は、浪士組結成の真意を聞く為に、江戸牛込二合半坂にある松平上総介の邸を訪ねた。

「これはこれは、天然理心流の試衛館道場、近藤勇殿でありますな」

 客間へと招き入れると、月代が極端に狭く剃られた、いわゆる講武所風という髷をしている松平上総介が試衛館の一同を歓迎した。
上総介は講武所を開設した際に、剣術教授方に任命されている。
勇の講武所での一件は、上総介の耳にも入っていたので余計に近藤勇という男を歓迎したのだ。

「講武所の一件ではとんだ無礼を働いたようで、それは詫びようではあるまいか。
しかし近藤殿、講武所は個人の武技を鍛えるだけで実に口惜しい所だ。
よくぞ浪士組の募集を受けて下さった」

幕臣ともなると、もっと鼻にかけた厭な男だと思っていたが、そうでもないらしい。

「いえ、講武所の件が流れてしまい、私は一道場主とし、将来が真っ暗になってしまいました。
しかし今回の浪士組の件で新しい光が見えました。
つきましては、我等試衛館の門人一同で浪士組に参加したいと考えております」

「うむ。つまり近藤殿一人の問題ではあるまいという訳だな」

「はい。御公儀(ごこうぎ)の御為に忠義を尽くして存分に働きたいと思っている所存にござりまする。
今回の浪士組募集についての真意というものを、松平上総介様にお伺いしたくて本日は参りました」

勇の屈託の無い言葉に上総介は感銘を受け、うむと頷いた。

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