鬼の生き様


「今回の浪士組募集というのはだな、諸君。
来月の二月に将軍、家茂公が御上洛なさる。
そちらにはその将軍警護をしてもらいたいのだ」

徳川家茂の警護という言葉に固唾を飲んだ。
天領の地にて生まれ育った歳三や勇達にはらそれほど名誉あることはないのた。

「昨年の閏八月に会津藩主・松平肥後守(まつだいら ひごのかみ)が初めて京都守護職に任ぜられたのだが、守護職の任務というものは、公家と幕府の調整役だ。
諸君らも知っているだろうが、今や京の都では天誅と称して乱暴狼藉を働く尊攘過激派の不逞の輩が血の雨が降らしているのだ。
容保公も大変、ご苦労が多いであろう。
公武合体の為に浪士組に入り、是非働いて頂きたい」

松平肥後守とは、会津藩主の松平容保(かたもり)の事である。
天保六年(1835年)の生まれで歳三とは同い年である。

上総介の言葉に一同は震えた。
浪士組に参加し、尽忠報国の志のもと存分に剣を振るおう。
一同の決心は固かった。

 邸を出て今夜は道場で無礼講で酒を酌み交わそうという事となり、酒屋にて酒を買い漁った。

夜はすでに更けている。
「山口くんも飲みたまえ」
もう何日も山口を匿っている。
食客が一人も二人も増える事に、勇は少しも気にしていない様子であった。
役人達もだいぶ静かになり、旗本を斬った罪人という事も脳裏からは薄くなっていた。

「我等、試衛館一同!
御公儀の為に存分に働こう!」

長年夢描いていた武士になれる、有頂天とはまさにこの事だ。
酒の力を借り笑い上戸になっている勇を見て、歳三は冷静を装うが心のうちでは喜びが満ち溢れていた。

「山口はどうする?」

歳三の問いかけに、山口は持っていた酒器に静かに目を下ろした。

「俺は…浪士組には参加しません」

「大赦になるんだぞ」

「これ以上、皆さんの世話になれない。
それに仲間の一人が、罪人ともなれば近藤さんや土方さん。あんた達の株が下がる」

「水臭え事言うんじゃねえよ」

左之助はそう言うが、山口は頑なに首を縦には振ろうとはしない。

「先に京へ行きます。
そして改めて貴方達と合流し、その時は共に剣を振るいたい」

山口はそう言った。
これ以上、引き止めようは無かった。

 山口は翌日、試衛館を経った。

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