鬼の生き様

 しばらくして幕臣の山岡鉄太郎からの呼び出しを回状で知った。

この所、勇は風邪をひき、体調が崩れていた。

十八日には完全に寝込んでしまっていたが、翌日に鉄太郎と面会を行なった。
そこには歳三も共にいた。

 山岡鉄太郎の邸宅に行ってみると、幕臣とは思えない見すぼらしい家に住んでいた。
さらに驚いたのは浪士組の発起人である清河八郎もそこに居たのだ。
清河自身も背は高いが、山岡鉄太郎は身の丈六尺二寸(約186cm)、体重は二十八貫(約105kg)と並んでみると清河はまるで子供のように見えるほど比にならない体格だ。

何やら今は山岡鉄太郎の家に清河は居候をしているらしい。

 話の内容は昨日の上総介の話と殆ど同じだったが、聞けば聞くほど意欲が高まった。

「失礼、しばし厠へ」

勇は病み上がりの為に、いつもの屈強な表情ではなく疲弊しきっていた。

歳三はここぞとばかりに背筋を伸ばし、二人を見ながら、

「我等、試衛館の一同は道場をたたむ覚悟で門人を率い浪士組に参加します」

と力強く言葉を放った。

「頼もしいお言葉!」

清河はそう言い微笑んだ。

「道場を畳む覚悟で参加をするつもりです。
是非とも、丁重に扱って頂きたいのだが」

あえて強調するかの如く、道場を畳むという言葉を再々使って言った。

「土方くんをかい?」

「いえ、近藤です。
近藤が役付なしだったら、門人達に示しがつきません。
一道場主としての近藤の顔を是が非でも立てていただきたい」

清河はなるほどと頷いた。

「尊皇攘夷の志を篤く感じ、私も近藤さんの気持ちに感動をしました。
任せてください、近藤さんには役付を与えさせて頂きます」

胡散臭いが、話せば分かる男なのかもしれない。
歳三は清河八郎という男を見極めていた。
それにしても能面と話しているみたいだ。
語気は強く立派な言葉を語るが、目には信念の眼差しは見られなかった。

(不気味な男だ)

歳三は底知れない清河の妙な気持ち悪さを感じていた。

武士になりたい。
子供の頃からそう思ってきた。
それになれるのなら、清河八郎を利用してやろうではないか。

 まもなく長年の夢の夜明けが近付いてくる。


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