鬼の生き様
「芹沢先生、よろしくお願いします」
勇は芹沢組となったため、小頭である芹沢に挨拶へと伺った。
芹沢はギロリと勇を見た。
「お前さんはたしかどこかで…」
「井伊大老の一件の時に」
「あぁ、思い出したぞ。
天然理心流、試衛館道場の近藤勇さんだったかね?」
勇は頷いた。
芹沢は人良さそうな顔で微笑んだ。
この日はあまり酒の匂いはしなかった。
「お前さん達は、ワシの組かい。
まぁ、道中よろしく」
「さぁ、お前たちも挨拶したまえ。
このお方が、水戸の芹沢鴨先生だ」
平山五郎は試衛館の一同に向かい、脅すような壮大な口調でそう言った。
(気に入らねえな)
歳三は不服そうに頭を少し下げた。
「ありゃ、水戸じゃなくて“仙台”じゃねえのか?」
左之助は山南に小さく耳打ちをした。
「原田くんやめなさい」
山南は少し笑いをこらえて言った。
二人で呑んだ時に独眼竜、伊達政宗の話をした事は記憶に新しい。
(気に入らねえ。
なんでこんな奴らが小頭で勝っちゃんには役職がねえんだ。
あの懐刀…新見錦。
あいつも小頭になっていやがる)
歳三は所用を思い出したと言い、その場を離れた。
向かった先は、無論、清河八郎のもとであった。
「誰だったかね君は」
「天然理心流、試衛館の土方歳三です」
やはり清河八郎、この男は苦手だ。
「以前話した事をお忘れでしょうか?」
清河は、「はて、なんの事かね」と首をかしげた。
「以前、山岡さんのお宅へ伺った時に、尊皇攘夷の志を篤く感じ、近藤さんの気持ちに感動をしたと貴方は言いました。
近藤さんに役付を与えると貴方はたしかに言った。」
「しかしもう決まった事」
ふざけるなと歳三は清河の腕を掴んだ。
歳三は清河を睨みつけ、清河は怯んでいた。
「我等をなめてもらっては困る」
歳三の語気は強くはないが、その裏側にある殺気を清河は感じていた。
「近藤勇を役付にしなければ、清河さん。
あんたを斬る」
ハッタリではないという事が清河には分かった。
「…分かった。
ここで死ぬわけにはいかん」
そう言うと清河の手を離し、歳三は頭を下げた。
「よろしくお願いします」
歳三はそれだけを言い、清河のもとを離れた。
清河は癇癪を起こしたように床をどすどすと地団駄を踏んだ。