鬼の生き様

 浪士組一同が集まると、清河は座ったまま、まず始めに浪士達を労った。


「浪士組の皆さん。
京までの長旅、実にご苦労であった」

そんなことぐらいで呼ぶな、と野次も出た。
歳三はあたりを見渡すと、佐々木只三郎や鵜殿鳩翁達、幕臣の姿がないことに気がついた。
その頃、佐々木や鵜殿達は京へ到着した事を、金戒光明寺へと赴き松平容保に報告しに行っていたのだ。


 清河は、姿勢を正して言葉を繋いだ。


「我等浪士組は、尽忠報国の赤誠(せきせい)より結成された一団である。
すなわち本分は尊皇攘夷にある。
天皇のため、日本のために命を捨てて立ち上がるのだ!
我等の真の目的は朝廷を擁立し、夷狄を打ち払うことである。
尊皇攘夷の魁となるが本分なり!
改めて申すまでも無く覚悟のことと存ずるが、この儀について速やかに朝廷に奉(たいまつ)り、即刻、御所へこの旨を上書いたす。諸君もご異存はあるまいな」

突然の話に浪士たちは困惑した。
直接朝廷の命令をもらおうというのである。
しかし、尊皇攘夷という志には一同変わりはない。

「よって帝にこの上書を提出致すので、血判を押して頂きたい」

「帝に我等の名前が御目通りになるのか!」

浪士達は大いに喜び、清河から回ってきた上書に連盟をしていく。

 血判状は次のように書かれている。

『謹んで上言奉り候。
今般私ども上京仕り候儀は大樹御上洛の上において、皇命を尊戴し夷狄を攘斥するの大義雄断遊ばされ候事に、周旋の族は申すに及ばず、尽忠報国の志これある者は、忌諱にかかわらず広く天下にお募り、その才力を御任用、尊攘の道御主張遊ばされ候ため、まずもって私どももお召に相成り、その周旋のあるべきとの義につき、夷変以来累年国事に身命をなげうち候者どもの旨意も全く征夷大将軍の御職掌御主張相成り、尊攘の道相達すべしと赤心に御座候えども、右のごとく言路洞開、人才御任用遊ばされ候わば尽忠報国の筋もこれに従い徹底すべしと存じ奉り、すなわちそのお召に応じまかり出で候。
しかる上は大将軍家におかれても断然攘夷の大命御尊戴、朝廷を補佐奉る者はもちろんの事、万一因循姑息、皇武離隔の姿にも相成り候わば私ども儀幾重にも挽回の周旋仕るべく、なおその上とも御取用いもこれなくば是非に及ばず、銘々靖献の心得に御座候。
その節は寒微の私ども誠にもって恐入り候えども、もとより尽忠報国身命をなげうち勤王仕り候儀につき、何とぞ朝廷におかせられても御垂憐いず方なりと尊攘の赤心相遂げ候ようおさし向けなられ候わば有難き仕合せに存じ奉り候。右につき幕府お召には相応じ候えども、禄位などはさらに相承け申さず、ただただ尊攘の大義のみ相期し奉り候間、万一皇命を妨げ私意を企て候輩これあらば、たとい有司の人人たりとも、いささかも用捨なく刺責仕りたき一統の決心に御座候間、威厳を顧みず言上仕り候間、お聞置きなし下され、微心徹底仕り候よう天地に誓って懇願奉り候』

勇は迷わずに血判を押したが、歳三は清河の心の内を読んでいた。

(妙だな…。主だった幕臣がいない時に、このような大事な血判状。
やっぱり、あいつの考えてることってえのは分からねえな)

そう思っていた、しかしそれは歳三だけではなく渋柿でも噛んだような顔をしているのは山南も同じであった。

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