鬼の生き様


 八木邸の十代目当主、八木源之丞(やぎ げんのじょう)は、向かいの前川荘司(まえかわしょうじ)の親戚筋にあたる。
前川家は、京都の油小路六角で両替商を営んでおり、その両替商とはいっても普通の両替商とは異なり、幕府や諸大名の金銀出納を代行する掛屋もしていた。

その掛屋をしていた関係で、京都所司代や京都奉行所と深い繋がりがあった。

 歳三の言う通り郊外の壬生村が浪士組の分宿場となった理由には、幕府の繋がりが深かった前川家が、幕府の要請を受けて手配をつとめた結果、壬生前川家と親戚筋の八木家がある壬生村が選ばれたのである。

そして二条城も壬生からなら近く、屋敷からは二条城も見えた。

二百三十余名もの浪士達を収容出来なければならない為、場所も必要であり壬生村には豪農が多く、郷士達の屋敷は大きかった。

まさにうってつけの条件が壬生村だったのである。

「ようこそ、おいでやす」

 八木家十代目当主、八木源之丞は歳三達を快く迎え入れた。

「恐らく三ヶ月程の期間ですが、何卒宜しくお願い致します」

勇はそう言うと、試衛館一同は頭を下げた。
八木源之丞、妻の雅、そして男兄弟で秀二郎、為三郎、勇之助、そしてまだ幼いセイという女児が居た。

芹沢はセイをジィッと喰い入るように見ている。

「芹沢さん、失礼ですぞ」

勇は小声でそう言い、袴の裾を掴んだ。

「あぁ、すまん。
どうも水戸の妹に似ていてな、つい」

芹沢は困ったように笑って、横鬢をかいた。
あの篝火の一件から、芹沢は勇を一目置いていた。
今の今まで芹沢としっかりと向き合ったのは、勇が初めての事だったから。

「失礼します、芹沢先生、近藤さん。
新徳寺にて清河が集まれとのこと」

「おう、新見か。
八木さん紹介しますよ、この男は新見錦といいましてね、ワシの弟分のようなものです。
中村さんって所に分宿されているが、以後お見知り置きを」

「あぁ、中村はんの所に…。
新見はん、宜しゅうお願いします」

「こちらこそ芹沢先生の事を宜しくお願い致します」

新見は急かすようにそう言うと、歳三達は新徳寺へと向かった。
まだ旅の疲れも取れていない、本来ならばこの日はゆっくりと休養したかった。

 新徳寺へと行くと、皆同じ気持ちであろう「来たばかりなのに何なんだよ」とざわついていた。


清河は既に本堂で正座をし待機していた。

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