鬼の生き様


 翌日、浪士の中から才弁と胆略(たんりゃく)に長けた、河野音次郎(かわのおとじろう)、宇都宮左衛門(うつのみやざえもん)、和田理一郎(わだりいちろう)、森土鉞四郎(もりどえつしろう)、草野剛三(くさのごうぞう)、西 恭輔(にし きょうすけ)の六名を、当時国事参政の詰めている京都御所の学習院へ出頭し、当番の鴨脚和泉(いちょういずみ)、松尾伯耆(まつおほうき)へ面会を求めたが、幕府の取り扱うべき浪士の上書を順番を踏まず直接受け入ることはできないとし、口論となった。

この日、参政御当番の橋本宰相中将(さいしょうちゅうじょう)は、当番の鴨脚、松尾が受付で六人の浪士と議論しているのを聞き、しばらく考えてから六人を階下に呼び入れた。

河野音次郎は橋本に熱弁し、まさに死を決した六人の態度に感動した橋本は上書を採納、さらに、浪士組宛てに勅諚(ちょくじょう)を賜わったのだった。

身分の低い浪士が天皇から勅諚をもらうなど前代未聞の出来事だ。

浪士組が天皇に認められた瞬間である。

清河の目的は快進撃の如く遂行されていった。

幕府の金で浪士を集め、朝廷につき、挙げ句の果てには幕府を討つ。


これが本当の目的である。
清河は再び新徳寺に浪士達を集めた。

「この度我等の想いは帝に届いた!
生麦の一件でエゲレスは強硬な談判をはじめ、次第によっては軍艦を差し向けるとまで脅迫いたしている。
我等はもとより夷人を攘(はら)う急先鋒にと存ずるにより、まず横浜に参って鎖国の実をあげ、攘夷の先駆けとなるのだ。
我等浪士組は、即刻横浜へ向かう!」

と言い放った。
将軍家茂はまだ上洛していない。

「お言葉ですが、それは出来ません!」

勇が立ち上がった。

「我々は将軍様の警護の為に京へ参りました。
その将軍様がまだ上洛もなさっていないのに、江戸へ戻れというのは筋が違う」

歳三も続くように立ち上がった。

「俺達は花見をしに京まで来た訳じゃないんでね」

続々と試衛館一同は立ち上がる。
山南は何も言わずに、じっと座って目を瞑っている。何かを考えている時は山南は大体腕を組み目を瞑る癖があった。

「土方くんのいう通りだ。
生憎、桜もまだ咲いていない。
我等も開花ぐらいまでは京でのんびりとさせて頂こう」

そう言い立ち上がったのは、芹沢であった。
芹沢一派も立ち上がると、清河は「あなた方は建白書に署名したことをお忘れかな?」そう言いながら、今にも斬りかかりそうな勢いで刀に手をかけた。

「清河さん、往生際が悪いですぞ」

山岡はそれを制し、清河は「勝手にしろ!ただの浪士に成り下がるが良い」と言い放った。

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