鬼の生き様


「土方くんの言う通り、借用書を書いて借りる事としよう。
会津からの給金が入ったら返していけばよいではないか」

「しかし借用書といっても、誰が保証人になるんです」

新見はそう訊くと、歳三が咳払いをして懐から一枚の紙を取り出した。

局長。

副長。

副長助勤。

「それについて考えていたのですが、我等もこの際、役職を決めるのはいかがでしょうか?」

「局長っておかしくないか。
普通、浪士組なんだから、組長だろう」

芹沢は聞きなれない局長という言葉を目にし、不服そうな顔でそう言った。

「会津藩は例えば公用方の事を公用局と呼ぶことがあるそうです。
我等壬生浪士組も会津藩の一部局という事で局長というのはいかがですか?」

なるほど、芹沢は納得をしたのか笑顔を浮かべた。

「勿論、ワシが局長だ」

芹沢はそう言うと、新見は歳三達を見て蔑むように笑った。

「えぇ、そのつもりです。局長」

歳三が言う「局長」という言葉に芹沢は満更ではなさそうな表情を浮かべた。

(ちょろい奴だ)

歳三は肚の中で芹沢を笑っていた。

「しかし、我等試衛館の者達にも面子というものがあります。
どうでしょうか、近藤も局長という事で」

「土方ァ、局長が二人というのはいかなるものかね?」

ところどころ口を挟んでくる新見に対し、歳三は嫌悪を抱いていたが、芹沢は「いいよ」と言った。
芹沢鴨という男、人を見る才覚のある歳三でさえも、性格がよく分からない爆弾のような謎に満ちた人物である。

「近藤くんも今の今まで道場主として、土方くん達を引っ張ってきたのだ。
今更、人の下にはつけねえだろう。
その気持ちを芹沢鴨、痛いほど分かるぞ」

芹沢はそう言うと勇の肩を組み、新見の肩も組んだ。

「それでは壬生浪士組、局長は近藤勇、そして新見錦。
筆頭局長は、このワシ、芹沢鴨の三人という事で決まりじゃ」


歳三は新見が局長になる事を止めたが、芹沢は低声で言った。

「ワシと新見は無二の親友だ。
こんな役職で序列はつけたくないのだよ」

三人局長。
渋々それを承知し了承を得なければ後から面倒臭くなるだろう。

< 186 / 287 >

この作品をシェア

pagetop