鬼の生き様

「羽織ィ!?」

芹沢の声が八木邸の一室に響いた。
この時には勇達は八木邸ではなく、向かいの前川荘司邸宅を屯所とし貸し切っていた。
八木邸には水戸一派が棲みついていて、部屋には芹沢と新見が酒膳を交えていた。

「我ら壬生浪士組。
常日頃から市中見廻りに出ています」

市中見廻りは会津藩から頼まれたわけではなく、歳三の提案で自発的にやるようになっていた。

「しかし隊服も無ければ、ただのお節介な浪士達が見廻りをしているだけに過ぎないのです」

「ふむ…そうだなァ」

芹沢は膳部を前にし酒を飲んでいたが、まだ酔っ払ってはいなかった。

「しかし恥ずかしながら金が無いのです……。
是非、芹沢さんの知恵をお借りしたくて」

恥ずかしそうに勇は笑った。
芹沢は大鉄扇を口元に当てて、そうだなァ、とまた呟いて暫くしてから、鉄線をバシンと閉じて言った。

「よし、大坂へと下ろう。
もうそろそろ端午だ、会津藩からの一時金が出たとしてもいつまでもむさ苦しい身形はしとられんからのう、近藤さんと土方くんの言う通りだ」

「どうするおつもりですか?」

勇は訝しげに尋ねてみると、「御公儀の為に働く我等に金子を都合してもらうのだ」と平然と芹沢は言ってみせた。

「借用書を書いて借金しましょう」

歳三はそう言うが、芹沢はいやいや、と首を振り、新見が上半身を少し屈ませ、

「武士は命をかけて戦うのが務めだ。
その武士に金を出し惜しみする商人は、幕府に逆らう者とみなす。
まぁ、君達みたいに武士ではない者に説いても解せぬかもしれんが」

と言って嘲笑った。
歳三と勇は皮肉めいた新見にムッとしたが、

「新見よ。
下級とはいえ、山南くんは仙台藩士出身だ。
そして永倉くんも原田くんも、藤堂くん、沖田くんも然りだ。
そんな彼等が同志とし、剣の師と仰いでいるのが近藤さんであるのだ。
従って、武士ではないと仰ることは、即ち彼等に対しても同様という事となってしまうから訂正したまえ」

と場を制した。


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